#18 「午前7時26分各駅停車中野行」
真冬の朝、背中を借りる
通勤客で隙間のない車内
満員電車だからと言い訳をしながら
見知らぬ背中にからだを寄せる
からだとからだの間に手のひらを挟んだら
指先からじわじわと体温を取り戻す
それは元々わたしの持っていた熱
分け与えられた温み
猫の毛、飛び出した羽毛、柔軟剤の匂い、白く浮いたフケ、毛玉
枝分かれした髪、煙草の残り香、整髪料の雫、ファンデーションの移り
子供が大人の背中にしがみつき
頬を摺り寄せる気持ちはこんなだろうか
知らないことは確かめようがない
真冬の寒い朝、わたしは背中を借りる。
< 了 >