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主人公は起業家 リスクをとって戦う彼らに最大のリスペクトを W ventures服部将大|投資家の素顔 #06

スタートアップ起業家の誰もが通る、資金調達。
起業家には個性的な方が多いですが、ベンチャーキャピタリストもまた、いろいろな経験を経ており、その知見や個性を生かして起業家を支援している方が多数いらっしゃいます。

この記事では、ベンチャーキャピタリスト個人に着目して素顔を明らかにしていきます。パートナー選びに困っている全ての起業家が、この記事を通して会いたいと感じるキャピタリストを見つける一助になれば幸いです。

第六回は、W ventures服部さんにお話を伺います。リーマンショック後のベンチャー投資が厳しい時代からキャピタリストとしての経験を積まれてきた服部さんの起業家への思いと投資家としての覚悟を知ることができました。

◆服部 将大
2008年新卒で三井住友銀行入行。法人銀行業務を担当。2010年より、SMBCベンチャーキャピタルへ発足時メンバーとして出向。リーマンショック直後の厳しい投資環境下から一貫してベンチャー投資に携わる。2018年、日本とシリコンバレー でVC投資を行うDNX Ventures(旧:Draper Nexus Ventures)へ参画。SaaS領域での投資業務をメインに従事。その後、W venturesへ参画、同社パートナー。主な投資先は、Kyash、ペイトナー、ユニファ、スマートニュース、グッドパッチ 、チームスピリット、クックビズ、Hacobu、カケハシ、TableCheck、UPDATER(旧:みんな電力)など。これまでにIPO7社、M&A6社を果たす。

テニス漬けの学生生活から、メガバンクへ

波多江:
まずは服部さんのご経歴やこれまでやってきたことをお伺いできればと思います。学生のころは、どのような活動をしていて、どのようなお考えで銀行に入られたのでしょうか?

服部:
小学校からずっと硬式テニスをやっていました。中学生では、全国大会で準優勝するくらいかなりテニスに打ち込んでましたね。

堀越高校に特待生で入学するタイミングで一人で上京し、日の丸を付けて海外遠征を10ヵ国ほど経験しました。その後スポーツ推薦で中央大学に入学、とにかくずっとテニス漬けでした。

これだけスポーツ漬けだったこともあり、就活にはそれほど時間をかけて取り組まなかったかもしれません。僕の場合は、リクルーターの先輩がきっかけで三井住友銀行に入行しました。

テレビ局や商社なども検討しましたが、父親が独立して金融業を営んでいたこともあり、金融業は身近な存在でした。今振り返ると、最初に三井住友銀行という選択をして良かったと思っています。

三井住友銀行には2年ほど在籍しておりました。中小企業を多く取り扱う支店に配属されました。大企業を取り扱っている支店で主担当補佐につく同期が多かった中で、幸いにも、70社くらいを一人で担当させていただきました。

今とは全く違う世界ですが、製造業や木材業、板金業などのレガシーな中小企業を多く担当させていただいたことはとても良い経験になりました。

リーマンショック後の厳しい時代から、キャピタリストとしてのキャリアをスタート

波多江:
2010年にSMBCベンチャーキャピタルに入られていますが、どういった経緯だったのでしょうか?

服部:
元々、大和証券と三井住友銀行の合弁企業である大和SMBCキャピタルがあったのですが、合弁事業が解消されたタイミングでSMBCベンチャーキャピタルが立ち上がり、発足時のメンバーとして運よく僕が選ばれました。

リーマンショックの影響もあり、投資環境は今とは全く異なりました。20社ほど引き継ぎましたが、売却交渉先がほとんどでした。ファンドを流動化しなくてはならなかったり、売却の指示や資金調達先が少なかったため、ジャフコや老舗VCからセカンダリーの案件をもらうための営業活動にも力を入れていました。

今ほどエコシステムが作られてなかったので、当時引き継いだ投資先の関係者や担当のキャピタリストなどと積極的にコミュニケーションを取りましたし、ネットや新聞、雑誌を見て、自分で問い合わせたり飛び込みで新たな人脈をつくりました。通常銀行系のVCだと、担当エリアに基づいて活動することになっているのですが、自分の場合は、自由にネットワークや人脈をつくることを許されて活動していました。

当時は、1億円、2億円に到達するだけでもかなり大きなファイナンスとされる時代でした。VCにとっては氷河期のような時代でもありましたが、僕の年齢でその時代の投資を知っていることは財産だと思います。今では、億単位の資金調達が当たり前ですが、当時はその状況下で、資金調達の厳しさとか、1円の重みのようなところも含めて経験してきました。

今では独立系VCも増えて資金調達もしやすくなったので、起業家にとってはとても良い環境になりましたよね。

良いと思ったら一番に動く、挑戦する起業家に自分も覚悟を持って向き合いたい

波多江:
SMBCベンチャーキャピタル時代で、印象に残っている投資について教えてください。

服部:
投資させていただいた企業はどれも思い入れがありますが、例えばIPOを達成したグッドパッチですかね。(投資したのは)2015年頃だと思います。

◆株式会社グッドパッチ
「Gunosy」や「MoneyForward」などの UI/UX デザインなどの設計。「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、世界200人以上のデザイナーを抱える有数のUI/UXデザインのリーディングカンパニー。

当時の銀行系VCでは、今よりも更にシード投資は難しかったので、シード期ではお力になれませんでしたが、最終的に銀行系では僕らだけが唯一シリーズAのタイミングで入ることができたのは僕としても嬉しかったです。

最初に出会ったのは、代表の土屋さんが創業して数ヵ月のときです。1階に中華料理屋が入ったかなり古いビルの2階にあって、僕が今まで見てきたなかで一番と言っていいほどボロボロなオフィスでした。

UI・UXが企業価値を上げてブランディングに繋げることの重要性は、その当時の日本ではまだそれほど浸透しておらず、ましてやスマホでそれを実践できるようなものはありませんでした。

土屋さんはいち早くそこに目をつけられていて、僕もそんな彼を信じてやってきた感じです。結果的には3桁億の時価総額も付いてIPOを実現することができ、本当に良かったなと思ってます。

銀行系だと最後の最後に入ってくるようなイメージを持たれていて、そういうのを払拭したかったんです。創業の段階で、何としても投資したいという気持ちを明確に伝えることで、起業家も喜んでくれて評価してくれるようになりました。

最終的に投資できるかについては社内プロセスがありますが、早い段階で起業家に対して手を挙げて、あとはなんとか社内を通すようにしていました。通らなかったら辞める、くらいの覚悟で毎回臨んでましたね。そういう覚悟は起業家側にも伝わっていたんじゃないかと思います。

先日W venturesとしても投資させていただいたKyashも、当時も投資させてもらいました。当時面識は無かったのですが、代表の鷹取さんも三井住友出身で同期でした。別の同期に紹介されて、実際に会ってみたらとてもクレバーな方で、もうその場で投資したいと伝えました。

◆株式会社Kyash
ウォレットアプリ「Kyash」の提供。実店舗での利用が可能なVisaカード「Kyash Card」、「Kyash Card Lite」の展開。人々の価値観や想いが自由に届けられる「新しいお金の文化」を創造することを目指す。

それで、僕らが一番最初に投資をさせていただき、それが呼び水となって、最終的には1億超のラウンドになりました。

当時から、起業家はリスクをとって裸一貫でやっているんだという気持ちがずっとありました。そういう起業家の覚悟みたいなものを感じる中で、自分の中で壁というか、差を感じていたところもありました。

そのため、僕もキャリアを辞するくらいの気持ちで、リスクをとってやっているという覚悟みたいなものを起業家に対して示したかったんだと思います。

所謂、銀行系VCっぽくはなかったかもしれないですが、そのような感じで8年間SMBCベンチャーキャピタルで投資業務に従事しておりました。

起業家にとって安心でき、最初に相談したいと思ってもらえる一番距離の近いキャピタリストでありたい

波多江:
現在W venturesに入られて2年くらいになると思いますが、これまでのキャピタリスト人生で影響を受けた方はいらっしゃいますか?

服部:
多くの尊敬するキャピタリストの方がいらっしゃいますが、中でもANRIの河野さんですね。

僕は、年齢の割にVC歴としてはある程度長かったのですが、色んな起業家と向き合う中で、自分がエンジニアでもなければ、事業会社の経験もないということに不安を覚える時期がありました。そのため、「どこかの事業会社に入った方が良いのかな?」とか「エンジニアの経験もないのに、偉そうにプログラムのことを言えないな」なんてことを考える瞬間が当時ありました。

特に河野さんは、W venturesに入ったタイミングで定期的に相談させていただくようになりました。最初はジャフコにいらっしゃって、その後ITV、ANRIという経歴で、純粋に投資家のキャリアを歩まれていらっしゃる方でした。

河野さんと交流する中で、僕にしかできないキャピタリスト像があると思えるようになりました。

例えば取締役会など、どうしても重い空気になってしまったり緊迫するような場でも、その人がいてくれるだけで、起業家の人たちが安心できるとか。その場の空気をコントロールできるような存在であるとか。

起業家にとって安心できたり、まず最初に相談したいと思ってもらえるような、一番距離の近いキャピタリストであるべきだというお話に、とても共感しました。

起業家と近い距離だからこそ、時には厳しいことも言えるし、相談もしてもらえるんだと、僕も思います。

実績も素晴らしく、業界の先をいく先輩が、自分と近い考え方を大事にされていることが嬉しかったですし、良い目標になると思いました。

主役は起業家、リスクをとって道を切り拓く彼らに最大のリスペクトを

波多江:
投資先との関わり方で意識していることはありますか?

服部:
今のW venturesでも浸透させている自負があるのですが、口先だけでなく、事業が上手くいっていようがいってまいが、徹底的に起業家をリスペクトする姿勢が大事だと思います。

そもそも起業家がいなければ成り立たない仕事ですし、主役は、日々挑戦し続ける起業家たちです。もちろん、支援の仕方は沢山ありますし、出資させていただく以上僕らも腰を据えて最後まで本気で伴走させていただくのですが、究極的には、僕たちはあくまで出資という形で支援しているということは忘れてはいけないと思います。

リスクをとって起業していること自体素晴らしいですし、上手くいこうがいくまいが、雇用を作って売り上げを1円でも生み出していることは、尊敬に値することだと思っています。

こういう考えは、銀行時代に実務で感じたことが影響していると思っています。

例えば、格付けが悪い顧客に対してお金を貸しても担当者としては評価されません。社内では、そういった企業にお金を貸してもプラスにならないみたいな話になったりします。もちろん、現実問題回復の見込めない企業に融資をすることが難しいことは理解していますが、自分の営業成績に関係なく、本質的に融資を通して顧客を支えることが難しく、僕はそれがもどかしかったです。

サラリーマンの身分で、リスクをとって挑戦している経営者の人たちに対して、全部分かったように良い悪いを言うのは、釈然としない気持ちがありました。

どうしても無意識に、お金を出す側の立場が強くなりがちですけど、僕はそれは違うなと思っています。そういう背景もあって、起業家をリスペクトする心は、とても大事にしています。

個人はFintech・スポーツ、W ventures全体はエンタメ・スポーツに注力。C向け特化で50億円規模の2号ファンドもシード投資を強化中。

波多江:
W venturesでは、今特に注力していることはありますか?

服部:
W venturesとしては、C向け、シードアーリーに力を入れるというのが方針としてありますが、僕がジョインしたタイミングでシード投資を更に強化しなければならないという状態でした。

そういった経緯もあって、僕が入った段階で、シード投資を頑張って欲しいということで任せていただきました。そこから半年くらいで、シード期のスタートアップ向け投資プログラム『W speed』というものを完成させていきました。

1号ファンドでは、なんとか1年程度の間にW speedで20社超のシード投資を実行させていただくことができました。

現在の2号ファンドでも、一定のバリュエーション範囲、投資金額数千万円を基準にして、引き続きW speedとしてシード投資に力を入れています。

ファンドサイズは、1号ファンドが50億、2号ファンドも50億円です。1号は57社に投資しており2号も20件ぐらいに投資済みで、おかげさまで順調に投資先が増えています。

領域としては、C向け特化しており、その中でもエンタメ、スポーツ、ライフスタイルの3つに注力しています。僕個人としては、スポーツテックとFintechに注力しております。

最近はB向け、特にSaaS領域の投資家は増えていますが、50億円程度のファンド規模でC向けに特化し、シードからシリーズAのフェーズにある程度の金額でリード投資をできる投資家が日本には少ないので、そこはW venturesの強みです。

大きな志と、それを何故あなたがやらなければいけないのか。

波多江:
こういう起業家にぜひ会いたいとか、起業家のこういうところを見てますみたいなのものがあれば教えてください。

服部:
まず僕の場合は、「この人いいな」と思ったら会ったその場で投資を決めることが結構あります。
それを踏まえた上で、大きいことをやろうとしている起業家に会いたいです。

言葉は悪いですが、スモールキャップでのEXITを狙うのではなく、世の中を変えるような大きなビジョンを持っている方に懸けたいと思っています。業界の一番を目指してくれるような気概のある方には、投資をしたくなりますね。

資金調達も、組織づくりも、起業家には沢山の壁が待ち受けています。それに耐えられる力があるかということも、とても大事です。耐え得る人かどうか、投資の段階では見えにくい部分もありますが、なぜ起業したのか、なぜその人がやらなければならないのかを自分の言葉で話せるかどうかで判断します。

過酷な状況でも、その先に実現したいものが見えていて周囲に対しても絶えず語ることができる人が良いですね。

大きな志とやり切れるだけの原体験やストーリーを持っている人、待ってます!

個人の金融資産2千兆円、応援したい企業へ流れるきっかけになるかもしれない株式投資型クラウドファンディングに期待

波多江:
株式投資型クラウドファンディング(以下、株式投資型CF)についてお伺いします。服部さんから見て、株式投資型CFと相性がよさそうだなと感じられる領域などはありますか?

また、逆に株式投資型CFに対して感じられる課題があれば教えてください。

服部:
前提としてC向けは全般的に相性が良いと考えています。個人の方でも圧倒的に手触り感を感じられるというか、良い悪いを判断しやすいと思うので、支援が集まりやすいのではと思います。

課題は、起業家たちからすると、誰が株主になるのかが見えないという点と、個人投資家として株主が沢山入ることによるIRコストだと感じています。株主とのコミュニケーションが大変になりそうとか、株主管理や報告が大変そうとか、そういう漠然としたネガティブなイメージがあると思います。

そこについては、イークラウドなど、プラットフォーム側のサポートが整っていることは理解していますが、起業家にはまだ知らない方も一定いるのかなと思います。

日本の個人金融資産が2千兆円以上と言われていて、世の中にこれだけお金が眠っているので、個人の方々が保有している資産を動かせたら産業構造が全然変わると思います。

IT企業の成長株に個人が普通に入ることなんてこれまでできなかった。そういったところに、個人のお金が入ったら世の中がすごく変わるだろうなっていうのは昔から思っていたので、株式投資型CFにはそういう期待がありますね。

起業前からしっかり伴走するインキュベーションプログラム『SCRAMBLE』など創業初期の起業家のサポートを充実

波多江:
最後に起業家の方へのメッセージをお願いできればと思います。

服部:
W venturesとしても、起業前の段階から支援する、エンタメ・スポーツに特化したインキュベーションプログラム『SCRAMBLE』というものを立ち上げています。年に2~3回実施しており、採択した時点で1千万円の投資を確約しています。

こういったプログラムも含めて、リスクを取ってチャレンジしようとしている起業家に対して、僕たちも腰を据えてサポートしていく覚悟でおります。寄り添うとか、言葉だけではなく、実態としてそういったサポートをこれからも充実させて、本気で起業家と伴走していきます。

壁打ちでもいいですし、スタートアップってどんな感じですか?のようなざっくばらんなお話でも構いません。そういう気軽なところから僕たちに相談してもらえると、とても嬉しいなと思います。

波多江:
起業前の段階でも、原体験や自分はこうしたいんだっていう思いがある方は積極的にW venturesさんに相談してみると良いですね。

服部さんありがとうございました!

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◆W venturesのインキュベーションプログラム『SCRAMBLE』

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