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【後編】ブルーノートをほぼコンプした私が勝手に選ぶベストアルバムTop10

ジャズの世界においてナンバーワンともいえる人気を誇るレーベル、Blue Note(ブルーノート)。Blue Noteには名盤が数多くあり、ジャズを勉強したいと思う人間にとってはバイブルのような存在です。

このコラムを書く筆者もその音楽性とレコードの奥深さに魅了されたひとり。それでは、ファンを夢中にするアルバムにはどんなものがあるのでしょうか?オリジナル盤でほぼコンプリートしてしまうほどBlue Noteを愛してやまない筆者が、ジャズを聴いてみたいあなたのために、ランキング形式でお勧め作品トップ10を解説してみたいと思います。

今回はその後編として、5位から1位までの紹介です。


文:福田俊一(Ecostore Records)


※【前編】10位~6位はコチラから



20歳ちょっと過ぎの筆者が衝撃にも似た感覚を味わったのはとある中古レコード店でのことでした。R&Bシンガー、ディアンジェロの2000年作『ヴードゥー』をiPodで聴きながら、初めて訪れたお店で棚を物色していた時。所狭しと並ぶ古いジャズの中古レコード盤を横目で見ましたが、誰が有名なアーティストなのかも分かりませんし、数万円するレコードは何故そこまで高価なのかもその時の私には皆目見当もつきません。それまで私が興味を持っていたものより値段もウンと高く、古そうなレコードがその店にはずらりと陳列されていました。

そんな中、『ヴードゥー』に収録の「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」がiPodから流れていた時、イヤホンを外しても同じメロディが聴こえるのにふと気付きます。店内をキョロキョロと見回すと、店主がレジ横のプレーヤーで再生しているレコードがその発信源でした。「なんというアーティストのアルバムですか?」と聞くと、店主はそれがマリーナ・ショウ『フー・イズ・ジス・ビッチ、エニウェイ?』だと教えてくれました。

まさにその時、Blue Noteへの入り口が目の前でガチャと音を立てて開き、両手を広げて私を歓迎してくれた、ような気がしました。私とBlue Noteの出逢いはこれほど突然だったのです。


5. Marlena Shaw / Who Is This Bitch, Anyway? / BN-LA397-G


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1975年発表。ジョージ・バトラーがプロデュース。67年にCadet(カデット)でデビュー、レアグルーヴ・ファンから高い人気を誇る2作目『ザ・スパイス・オブ・ライフ』を残したあと、72年にはBlue Noteに移籍。本作がBNで4枚目となった作品です。マリーナ・ショウを聴いて欲しい理由は何と言ってもその歌唱力と表現力。ゴスペル音楽で育ったソウルフルな歌声と、やや低めな彼女の声質はいつの時代も聴くものを魅了してやみません。「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」はこの前年に録音されたソウルシンガー ロバータ・フラックによる歌唱が有名ですが、こちらもそれに負けず劣らず、デイヴィッド・T・ウォーカーの甘美なギターの音色も艶っぽい、大人の恋の物語が展開される絶品。

日本語に訳すなら「それで、この女は一体何なのよ」というアルバムタイトルもインパクト大です。



4. Dexter Gordon / Gettin’ Around / BLP 4204


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1966年発表。ボビー・ハッチャーソンが奏でる透き通るようなヴァイブラフォンの音色がデクスター・ゴードンが吹く野太いテナーサックスにも相性バッチリな作品。バリー・ハリスのピアノも演奏に華を添えます。「黒いオルフェ(Manha De Carnival)」や「エヴリバディズ・サムバディズ・フール」のほか、フランク・フォスター作の大名曲「シャイニー・ストッキングス」など収録。ゆったりとした雰囲気の中にあって、緊張感すら心地良く感じさせるのはこのメンツならではかもしれません。

スローなバラードありご機嫌な曲ありボサノヴァあり、Blue Noteをよく聴いたことがない方にはお勧めです。



3. Hank Mobley / Roll Call / BLP 4058


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1960年発表。同年に録音した前作『ソウル・ステーション』もワンホーン名盤として名高いですが、本作は同じメンバーにフレディ・ハバード(tp)が加わったクインテット編成での吹き込み。スタンダードのバラード名曲「ザ・モア・アイ・シー・ユー」での優雅さだけでなく、発熱量も凄まじいハードバップ「マイ・グルーヴ・ユア・ムーヴ」でも彼ならではの味わいがたっぷりと楽しめます。ハンク・モブレーは、ジョン・コルトレーンほどカリスマ的な人気を集めるテナーサックス奏者ではありませんが、コアなジャズファンからは根強い支持を得る”信頼が厚い”ミュージシャンです。

そのモブレー自身が全幅の信頼を寄せるメンツとの共演こそが、このアルバムで伸び伸びと演奏している理由なのではないでしょうか。



2. Herbie Hancock / Speak Like A Child / BST 84279


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1968年発表。デューク・ピアソンがプロデュース、サド・ジョーンズ(flh)、ロン・カーター(b)ほか参加。果たして、これほどまでに美しくロマンチックなジャケットが他にあるでしょうか?写真でキスをする影はハービー・ハンコック夫妻だそうで、タイトルを日本語に訳すなら”子供のようにお喋りしよう”。マイルス・デイヴィスのアルバムにも収められた2曲「ライオット」と「ザ・ソーサラー」は多感な幼少期を表現したようなドラマチックな曲、そして同作品の顔ともいえるタイトル曲「スピーク・ライク・ア・チャイルド」は子供時代を思い出した感傷的な大人の心理を譜面に書き起こしたような繊細な印象の楽曲。

ハンコックの詩的な世界観が作品の初めから終わりまでぎっしりと広がっており、まるでおもちゃ箱を開けたかのような、夜眠る前に親に絵本を読み聞かせてもらっているような、そんな優しい心持ちにさせてくれる一枚です。



1. Horace Silver / The Tokyo Blues / BLP 4110


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1962年発表。同年正月に初来日を果たしたホレス・シルバー。本国アメリカよりも遥かに大きな歓声とともに迎えられたその感動と日本の印象を、ラテンのリズムと共に表現したのがこの作品。ピアノトリオ編成によるバラード曲「チェリー・ブロッサム」以外はすべてシルバーのペンによるもの。タイトル曲「ザ・トーキョー・ブルース」の他、「トゥー・マッチ・サケ」、「アー!ソー(あぁ、そう)」という日本に因んだ名前の曲が並びます。特に「サヨナラ・ブルース」は、彼らしいファンキーなノリの中にブルースの苦さが程よく舌に残って痺れる名演です。ジャケット写真は当時ニューヨークにあった日本庭園で撮影されたもので、シルバーの左側(写真手前)の和服美人は米国留学中の映像作家 出光真子さんとのこと。

ジャズが好きな日本人には是非とも一度は聴いもらいたい素晴らしいアルバムです。



番外編:Art Blakey ‎/ Holiday For Skins Vol.1&2 / BLP 4004, BLP 4005


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1959年発表。BNの看板ドラマー アート・ブレイキーによって、モダンジャズとアフロキューバンジャズが融合した異色作『オージー・イン・リズム Vol.1&2』が57年にリリースされました。本作はその続編ともいえる同じコンセプトで作られたアルバムで、Vol.1とVol.2のLP2枚に分けられて発売されました。サブー・マルティネスやレイ・バレットら第一級のパーカッショニストを迎えた一方、ドナルド・バード(tp)、レイ・ブライアント(p)、ウェンデル・マーシャル(b)に加え、フィリー・ジョー・ジョーンズとアート・テイラーとブレイキーという3人の実力派ドラマーが一度に相まみえる壮大な展開が繰り広げられます。ブレイキーらの掛け声(チャント)の後、パーカッションが騒がしく鳴り響く。そうかと思えば彼の真骨頂ともいえる迫力満点のドラムソロが空間を支配します。

あなたもこのアルバムを聴けば、ジャケット写真にあるようにブレイキーがその掌から魔法を放っているかのような錯覚を覚えるでしょう。他の優美なモダンジャズの世界とは全く違う、新しい”ジャズの在り方”をブレイキー自らが体現するかのような、他のレーベルにはないBNならではの一風変わった試みが楽しめる作品です。





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前編と後編、計2回に分けて筆者が選ぶBlue Noteトップ10をご紹介しましたがいかがでしたか?Blue Noteに詳しくないどころか、ジャズに詳しくはない方にもその興味の入り口のドアはいつでも大きく開かれています。使われる音階やコードが分からなくても、ジャズは案外どなたでも気軽に楽しめる音楽ジャンルです。

難しいことはあまり考えずに、あなたにとっての記念すべき”初ジャズ”をBlue Noteの名盤から選んで聴いてみてください。


筆者紹介:
福田俊一(ふくだ・しゅんいち)
FTF株式会社 IT事業部/販売部兼務。買取部門のコラムやnoteのほか、販売部門の特集コラムを執筆。大学生のころにヒップホップに夢中になり、いまも大好きで毎日聴いている。ジャズを好きになったのは22歳、レコードを集め出したころから。



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