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童話

ある森の中に、ひとりの少女がくらしていました 

少女は少女がもっとおさないころ、悪い大人たちにりょうじょくされ、ひとりこの森ににげこんだのでした 

毎日木の実をひろったり、花のくびかざりを作ったり、小鳥とあそんだり、少女はたのしくくらしていました 

でもときどき少女は泣きました 
悪い大人たちのかおを思い出しては、しくしくしくしくとなみだをながしました 

そんな少女をしんぱいして、ともだちの小鳥さんがまどべにやってきます 

「げんきをおだしよ、さあぼくらとうたおうよピヨピヨ」 

「ありがとう!わたし、うたうわ」 

少女は小鳥のうたにあわせてうたいだします 

するとどうでしょう!そのうたごえは、さきほこるバラの花よりうつくしく、秋の青空よりもすみわたり、つららのように心をさすのでした 

「おい、なんだいこのきれいな声は、どこからきこえるのかな」 

「こりゃあだいすきなハチミツよりもあまい」 

「いってみよう」 

うさぎさん、くまさん、しかさん、へびさん 

森のみんなはいっせいにそのこえのするほうにかけだしました 

そうして 
少女ルナのうたは、森いちばんのにんきものになりました 

それからというもの、少女は毎日うたいました 

そして涙をみせなくなりました 

「ああたのしいわ!わたしはきっとうたをうたうために生まれたのね」 

なかまもたくさんできました 

みんな少女のまわりにあつまります 

「ルナ、あのうたをきかせておくれよ」 

「ルナ、今日はおれのためにうたってくれよ」 

少女はせいいっぱいうたいます 

あさはやくでも 
よなかでも 
のどがつぶれそうになっても 

みんなのために 
自分のためにうたいました 

「ルナ、もっとあたらしいうたをうたってよ」 
「ルナ、あさまでうたっておくれよ」 
「ルナ、もっともっとたのしいうたをうたってよ」 
「ルナ、そうじゃないよ、そんなのがききたいんじゃない」 
「ルナ、そのうたはもっとげんきにうたっておくれよ」 

少女はこまってしまいました 

そして、あるよる、少女はまた悪い大人たちのゆめをみました 

めがさめると、目からたくさんのなみだがこぼれだしています 

「わたし、うたがきらいになってしまったの?」 

たのしいうたをうたいたいからうたっていたのに、 
いつのまにか少女は、 
たのしいううたのうたいかたをわすれてしまったのです 

それからというもの少女は 
かなしいうたしかうたえなくなってしまいました 

森のみんながしんぱいしてあつまってきます 

「ルナはいったいどうしてしまったんだろう」 
「どうもさみしいうたごえじゃあないか」 
「きっとおなかがすいているんだよ」 

うさぎさんは木の実をいっぱいあつめて 
くまさんはとっておきのハチミツを 
しかさんはきれいなお花をつんでやってきました 

「みんな、ありがとう、あたし、みんなのためにたのしいうたをうたうわ」 

少女はおひさまのようなえがおを見せ、みんなのためにせいいっぱいうたいました 

「なんだ、げんきじゃないか」 
「よかった、しんぱいしてそんしたよ」 
「もっとがんばってもらわないといけないね」 

あんしんして少女の家をあとにするなかまたちに、へびさんがいいました 

「ルナはうそつきなのさ、みんなからおくりものをもらうために、わざとかなしいうたをうたっているのさ」 

森のなかまたちはおどろきました 

「なんだって」 
「ぼくのハチミツ、もったいないことをしたなあ」 
「なんて、いやなやつだ」 

少女はまたひとりぼっちになりました 

森の中にはまいばん、かなしいうたごえがひびきわたりました 

たったひとりのともだちの小鳥さんがやってきていいました 

「ルナ、きみはきみのうたいたいうたをうたうといいよ、ぼくのように」 

「もう、わたしはなにがうたいたかったのか、わからなくなってしまったの」 

小鳥さんはかなしそうなかおをしました 

「ぼくもきみといっしょにずっとうたいたい、でもぼくはもういかなくちゃいけないんだ、ルナ、げんきで」 

小鳥さんは森のはっぱのいろがかわるとたびにでなくてはなりません 

少女はほんとうにひとりぼっちになってしまいました 

そして、とびきりうつくしいこえで、うたをうたいました 

かなしい、かなしいうたを 

ある日、森の中からうたごえがきえてしまいました 

森のなかまたちがふしぎにおもって少女の家をたずねると 
家の中はからっぽになっていました 

みんなはわんわん泣きました 

みんなほんとうは少女も、少女ののうたごえも、だいすきだったのです 

「うそつきなんていってごめんよ」 
「まいばんきこえるきみのうたを、ぼくほんとうはまいばんたのしみにしていたんだ」 
「ああ、どんなうたでもいい、またきかせておくれよ」 
「ルナ!」 
「ルナ!」 

でももう二度と、そのうたをきくことはありませんでした 

小鳥さんがまたこの森にもどってきたころ 
森でいちばんおおきな木の下で少女は 
つめたくうごかなくなっていました

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