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生保業界における保険の新ジャンルを構想する

※本記事は私が個人的に行った思考実験の記録です。

歯科検診を受け、自分がいかに歯の健康に無関心だったか痛感したという話を以前に書いた。

歯周病にせよ虫歯にせよ、一生に一度の財産である"自分自身の歯"を失いかねない病気である。

歯の健診に定期的に行っている人は少ないし、職場でも「実は虫歯が進行して歯を失っている」人間が結構な人数でいる。

インプラントやセラミックでの穴埋めなど、歯の治療は保険適用外の方法が多く自己負担率も高くなりがちである。

生命保険はいざという時の財源を用意する役割があるので、このような「お金のあるなしで選択肢の広さが大きく変わる場面」では非常に威力を発揮する。

そこで、歯周病や虫歯などにかかったときに一時金が出る「歯の保険」を作ってみてはどうだろうか。ここからは歯の保険を創設するにあたって考えられる課題とその対応策をつらつらと考えてみよう。

支払いとなるラインの設定

生命保険は「人々が好んでなりたがらない状態」を支払い条件に設定することが基本である。

なぜなら、痛くも痒くもない条件を設定してしまうと、お金欲しさに積極的にその状態になりたがる人間が出てくる。いわゆるモラルハザードである。

「こんな重い症状だったらほとんどの人は払われないじゃないか!」という文句が発せられることもある。しかし、よくある出来事を支払事由にすると保険料がバカ高くなったり、不正を呼び込む危険性が上がりかねない。

つくづく保険というのは悩ましい商品だ。

さて、人間の歯は外側からエナメル質、象牙質、セメント質の三層構造になっているが、虫歯が進行して象牙質を貫通すると痛みを伴う。

そのため、歯の保険を作る場合の条件は「象牙質を超え、セメント質まで貫通する」を設定することになるかもしれない。

同様の理由で、歯周病の支払事由もそれなりに重症になった場合に支払い条件を定めることになりそうだ。でないとモラルハザードが起こる。

啓蒙活動と割引制度

歯の保険を販売するということは、世の中の人に「歯の健康をおろそかにするといかに恐ろしいか」の啓蒙活動にも繋がる。

なぜなら、商品販売の過程で「歯の治療がどれだけお金によって左右されるのか」や、「歯の健康の重要性」を語ることになるからだ。

予防医療の観点や、社会的な意義も極めて重要なことである。

また、定期的に歯の健診へ通っていると保険料が安くなるオプションをつければ、金銭的な欲求に結びつけて予防医療を促進することができる。

新契約時の課題

生命保険は加入時の審査で隠された病気が発覚し、お客さまから感謝されることがある。

保険に加入できないということなので営業的には涙目だが、自身の健康状態をチェックする機会を作れるのは社会的にも意義深いことだ。

歯の保険を販売する上でこの加入時審査はなかなか大きな壁かもしれない。

隠された虫歯や歯周病が発覚して加入できない事態が頻発すれば、広く浅く保険料を負担する加入者の集団を形成できない。

対策として考えられるのは、生活習慣病に備える保険の支払事由に虫歯や歯周病をオプションとして加えることだ。

三大疾病や糖尿病など、既に大規模な加入者集団を形成しているところに歯の病気を加えることで、加入者が確保できないリスクを軽減するのである。

「虫歯や歯周病をオプションにする」のがミソで、仮に歯の病気が発覚して加入できなかったとしても、その他の生活習慣病の保障を勧められる可能性が残る。

虫歯や歯周病という身近な体験から生活習慣病への意識が高まり、他の商品への魅力度が高まることが見込める。

とはいえ、歯周病は糖尿病と関連する病気と言われているので、両方とも加入がダメになる可能性もあるのだが。(かえって加入資格者を狭めてしまう?)

証明方法の検討

歯の保険を作る場合、いかにして客観的な証明方法を準備するかが肝である。医師に診断書を書いてもらうのはもっとも確実な方法だ。

しかし、事務負担がかかるので、事例の蓄積とともに徐々に簡便な手続で支払える領域を作ってゆくことになるだろう。

手続の簡略化は保険会社としても是非やりたいところで、そのためには事例研究による低リスク領域と高リスク領域の峻別が必要なのだ。

ここまで考えてきて、「そもそも他の誰かが既に考えているのでは?」と思い検索してみた。下記の「歯の保険」発売は10年以上前で、クレジットカードの加入者とその家族のみ加入できる。

その後、他の保険会社が追随していないことを考えると、加入者資格が限定的すぎたのか、あるいはそもそもそこまで需要がなかったのか。


以上、保険商品の開発は試行錯誤をここに挙げた何十倍もしなくてはならない。もはや総合芸術の域である。

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