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グダグダなプロジェクトをぶん回して立て直す人たち

前任者の杜撰なシステム開発計画を引き継いだ先輩の敏腕ビジネスマンが、どのようにプロジェクトを「部下が勝てる局面」まで持って行ったか、詳細をぼかした形で書いてみよう。

そのプロジェクトは大規模な予算をもとに、業務を抜本的に改革するものだった。早速先輩は過去の議事録、開発資料、社内の決裁文書を読み漁る。経緯不明な情報もあったが、「そこはフラットに今の目線で評価すればいい」と考え、当時の担当者を追いかけて聞くことはしなかった。

自己で判断する能力がない人間は、どうにかして他人の過去の整理内容を探そうと奔走するが、そもそも検討されていなかったり、状況が変わって実態に則さなくなっているなど、徒労に終わることが多い。そのやり方だと、自分の頭で考えていないので議論をリードすることができないし、意思決定者まで持っていった時に歪みを指摘されてちゃぶ台返しになる。

「自分で決めるのが怖い」という感情を優先してしまって、かえって時間を無駄にしてしまうので、このような思考はやめた方が良いと先輩はボソッと呟いていた。

資料を読み込んでいくと、得られると想定された業務削減効果は机上の空論で、当初の目標よりも大幅な下方修正が必要だと分かった。このままでは負け戦確定である。さて、どうするか。

資源の集中投下

抜本的な業務改革のために沢山の施策が挙げられていたが、その中には筋の良いものもあった。そこで、「大きな成果が期待できる施策に資源を集中投下する」プランをまずは立てた。

死守すべきラインを決めてリソースの無駄遣いを防ぎ、浮いた分で他の勝ち筋模索に使うのだ。

私には「細々とした雑務はなるべく部下や後輩に任せ、お前は代替となる施策を考案することに時間を費やせ。手を動かすことによる"仕事をやった感"に騙されてはいけない」という指示が飛んできた。

私がアイデアを出すと普段よりも大きなリアクションで賞賛し、評価していることを全身で表現していた。普段がとてもクールなだけに、このメリハリはとても印象に残る。

量ではなくて質で「ベストを尽くした感」を出す

目標が未達に終わった場合、「あらゆる手を尽くしたけどダメだった」という評価を上司から得られなければ、無能の烙印を押されてしまう。では、死ぬほど残業すれば「やるだけやった」と認めてもらえるのか?

答えは否。単に量を増やすのはむしろ一番楽な対応策だ。普通の人間が思いつかないような角度の方法まで考案して試し、それでもダメだったというところまで粘らないと上の人間は認めてくれない。

先輩が考えたのは、社外・部外の人間のアイデアを取り入れて実施する、というものだった。細々とした雑務や個別のQ&Aは部下に割り振り、自身は前例のない部外・社外のコラボの手配に注力した。(視野の狭い部下からは、雑務を押しつけて楽してるように見える)

期待値コントロール

「このままでは負ける」と上層部に早速報告を上げ、ごめんなさいをして目標値を下げてもらう交渉をしようと作戦を練った。

とはいってもゼロ回答ではなく、「筋の良い施策もあるのでここまでは効果が得られる」「不足分を補うために前例のない施策を取り入れる動きもとっている」といった話を添える。

「ベストを尽くした」と見られるための努力は、他人への説得を容易にするのである。

また、プロジェクトが難航している様子を節目節目で上の人間にチラ見せしておく。「100点とれないのはしょうがないか」と上層部に刷り込んでおくことで、「頑張っているのに叩かれる」という事態を未然に防ぐ。これはプロジェクトメンバーのモチベ管理でも大事なことだ。

他人に乗っかれる部分はないかアンテナを立てる

先輩は空き時間に社内をブラブラして、他の部署の人と雑談をする。気分転換のためではない。「業務削減効果を補うため、他部署の相乗りできる企画がないか」を探るためである。

大きな組織で縦割りだと、同じ領域に対して違うアプローチで重複した施策を打っていることがあるのを見抜いているのだ。

これにより最小限の労力で、自分達の手柄を増幅することができる。

「人間的に嫌いだから」みたいな個人の感情は脇に置いて、使えるものはなんでも使うという精神である。その代わり、視野が狭くて本質的な話ができない人間や、実質的な影響力のない人間(肩書は関係ない)にはとことん冷たい。

上記のようなさまざまな対策を打っているうちに、当初は絶望的だったプロジェクトも「部下がレールの上に乗っかってキチンと働けば勝てる」に変わっていた。

プロジェクト最初の1,2ヶ月で動き回り、勝利の道筋を見極められるところまで来た。そのため、部下に仕事を任せるときも「自由にやっていいよ。はみ出しそうになったら俺が介入するから」という精神でドンと構えていられる。

後半は部下の軌道修正をしながら、次のプロジェクトの勝ち筋形成のために布石を打ち始める。これが、「仕事に追われるのではなくて仕事を追いかける人の仕事術」なんだな、と思った。

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