独学のトレーニング指導者におすすめしたい参考書 (覚え書き)
「なんかおすすめの本ないですか?」と聞かれた時用の備忘録です
個人的な見解なので苦情は勘弁してください
最初に注意しておきたい点(よく聞かれること)
①どういう順番で学ぶ?
基礎学問から学んだ方が良い。基礎学問が苦痛なら適宜臨床を挟んでも良いが基礎学問は必ず一度は通しで学ぼう。
基礎学問は解剖・生理→身体運動学とかがベターかもしれないがそこまで厳密に考えなくて良いと思われる。
自分はノイマンのキネシオロジー(『筋骨格系のキネシオロジー』)から完全に独学だった。
②邦訳と原著どっちを買うべき?
語学レベル(というかどの程度英語が読めるか)による。
バイリンガルレベルなら迷うこと無く原著が良い。
英語の論文もある程度読んでいます程度なら、通読を目指すなら邦訳推奨、辞書的に使うなら原著でも可といった感じか。
英語に触れたこと無いですというレベルならとりあえず邦訳からが良い。
他の分野は置いておいて、トレーニング科学やスポーツ医学といった分野は、日本語での文献よりも英語での文献(およびその邦訳)の方が圧倒的に知見の新しさや中身の質といった点で優れていることが多い。
しかし、原著が出版された後必ずしもすぐに邦訳が出されるわけでは無いため、必然的に日本語でのみでは「最新の知見の集大成」からは遠ざかってしまう。
あるいは、原著は版を重ねているにもかかわらず一度邦訳されたらその次以降の版については邦訳されないということも少なくない。
学術論文もしかり、英語が読めるか読めないかで得られる情報の量・質は全く異なる。
もしもトレーニング指導を極めたいのであれば、英語で情報を得られるようにするのは必要不可欠な技能であるといえる。
しかし、そうは言っても中身を学ぶ以前に語学的に苦労するようであると肝心の中身を学べずに終わってしまう可能性がある上、何よりもモチベーション的にも辛い。
そういう場合は素直に邦訳を使った方が良い。
しかし以下では邦訳のない参考書も紹介している。その点については了承願いたい。
③電子版と書籍版どちらを買うべき?
個人的には辞書的に使いたい本は書籍版で買った方が良いと考える。
アナログだと数百ページのまたぎも数秒で終わるが、デジタルだと逆に長いスクロールを経なければいけないということもしばしばある。
(アウトラインがあれば話は別だが)
逆にそういうこだわりがないならどちらでも良い。
最近はデジタル版も付属していることも多い。
④独学でホントに平気?
知識をつけるという点で言えば独学で問題ないはず。
少しでも「ん?」となったら別の専門書を参照したり、あるいは人脈を頼って質問するなどする必要はある。しかしそうして専門書を一冊咀嚼する経験は確実に役立つので一回は経験しておきたい。
ただし独学は自分のモチベーションに依存するため、モチベが落ちると詰む。
実践経験や人脈という点については割愛
基礎学問
A)解剖学・機能解剖学
解剖学は人体の構造を局所局所で見ていく学問、機能解剖学は実際の人体における機能との関連の中で構造を見ていく学問というイメージ。多分違う
トレーニング指導における機能解剖学といえば専ら筋骨格系であり、身体運動という枠組みを通じて構造を見ていくという感じか。
したがって身体運動学kinesiologyとの接点が強いと思われる。
トレーニング指導者なら少なくとも筋骨格系・神経筋系、どれだけ妥協しても筋骨格系はマスターしておきたい。
①カパンジー機能解剖学
身体運動に関する筋骨格系の機能解剖はこれ一冊で事足りそう。
これにキネシオロジーの専門書を組み合わせれば機能解剖学に関しては心配ないだろう。
②グレイの解剖学
解剖学に関する本も一応持っておきたい。
『グレイ』は様々な種類があるが、邦訳されているものはstudent editionの邦訳版、"The Anatomical ~"はさらに細かく書かれている。
辞書として使うのであれば"anatomical~"の方が良いか。しかしstudent edition以上に文字が多い(そして英語)なので注意。
それ以外にフラッシュカードやアトラス(解剖の図表)、review(問題集)などがあるが、アトラスぐらいしか邦訳がないようである。
解剖学の文献は別に『グレイ』に限らなくても良いかも。
大きめの書店や大学図書館に行って中身を見たうえで、自分が見やすいと感じたもので良い。
③何かしらのアトラス
解剖を学ぶ際には、アトラス(図表)を併用すると勉強がはかどる。
プロメテウスは非常に綺麗なイラストで見やすい。
↑は写真が多く掲載されているため、実物のイメージを掴みやすい。
それ以外にもiPhoneやiPad向けアプリであるvisible bodyや3D4 Medicalといったアプリは、立体的に身体の構造を理解するのに非常に役立つ。
特にVisible Bodyは4000弱で買い切りなので、とりあえず買っておくと良い。たまにセールもやっていてその時なら200円とかで買えたはず。
B)生理学・運動生理学
トレーニング指導者にとって解剖学と同じくらい重要な学問。
理想は生理学を学んだ上で運動生理学を学びたい。
運動生理学を勉強しながら、適宜生理学の専門書を参照するのが妥協点か。
①運動生理学20講
運動生理学の概観を掴むのに非常に役立つ。すこし内容や書かれ方は硬派だが、運動生理学を大まかに学ぶ最初の参考書として良い。
自分もこれで運動生理学を独学した。
②パワーズ運動生理学
運動生理学をしっかり学びたい、あるいは運動生理学に関する辞書が欲しい時はこれがファーストチョイスになるか。
臨床に関連する話も多く掲載されているのでその意味でもおすすめ。
③ガイトンの生理学
※邦訳(上)は13版の邦訳、原著(下)は14th eds.のため注意
運動生理学は当然生理学を基盤としているため、生理学の専門書があると助かるときも多い。
中身は難しめなので辞書として使うのがおすすめか。
C)身体運動学
基礎学問の中では臨床拠りか。
①筋骨格系のキネシオロジー
自分が人生で初めて通読した専門書ということで個人的な思い入れもあるが、それを差し引いても良著。
身体運動に関する関節学、および筋学に関して網羅されている。
機能解剖学と並行して学ぶと良いか。
②身体運動学:関節の制御機構と筋機能
上記の『筋骨格系』はちょっと……という場合はこれか。
しっかりと身体運動に関してエビデンスベースで記述されている。
D)バイオメカニクス
突き詰めるとゴリゴリの物理になるため、少しとっつきにくい学問。
しかしバイオメカニクス的な視点はトレーニング指導でも必要になるため、とっかかり部分だけでも学んでおきたい。
※『筋骨格系のキネシオロジー』でも、第4章あたりに「生体力学の基礎」と呼ばれる章があり、それを読むだけでも最初は良いかもしれない。
①McGinnisのバイオメカニクス
スポーツバイオメカニクスでわかりやすい専門書となるとこれか。
そこまで専門的な物理学の知識が無くても理解出来るレベルにまで落とし込まれている。
邦訳が近いうちに出るらしい。
②カパンジー 生体力学の世界
どちらかというと読み物として面白いかも。
臨床的な学問
スポーツ医学系統、ストレングス&コンディショニング系統、スポーツ栄養系統、トレーニング概論系統、といったように分けられるか。
トレーニング指導者といってもAT、S&Cなど様々な職種があるように、学問的な分野も幅広くある。
しかしこれらは全て連続的な関係性があるため、ATでもS&C分野を学んでおくことは非常に有効である。
筆者自身がスポーツ医学分野メインのため、必然的にその分野が特に詳しくなってしまっているがご了承願いたい。
A)トレーニング理論(概論)
「そもそもトレーニングとは何か?」「トレーニング科学とは何を科学するのか?」といった部分に関する分野。
①トレーニング論―トレーニング科学 パフォーマンス・トレーニング・試合
そもそものトレーニング論、パフォーマンス論、試合論について言及された書籍。
選手の育成に関する原論という位置づけか。
B)スポーツ医学系統①:概論
スポーツ医学に関する分野。
その中でも概論的な要素が書かれている書籍が下記。
①Principles of athletic training
迷ったらこれが良い。英語だが頑張って一冊通読する価値は余るほどにある。
「アスレティックトレーナー」としてスポーツ現場に立ちたいなら必須か。
②アスレティックトレーニング学
①がどうしても無理ならこれか。
③Netter's sports medicine
邦訳は第2版の分冊1冊目のため注意 2冊目以降はどこへ?
ATよりはMDやPTといった医療従事者向けか。
④DeLee, Drez and Miller's Orthopaedic Sports Medicine
クッソ高い
スポーツ現場でよく起こる傷害に関して、その診断や画像所見、管理などについて詳細に記述されている。
術式について写真つきで紹介されている点も◎
C)スポーツ医学系統②:スポーツリハビリテーション
スポーツで起こり得る傷害に対するリハビリテーションに関する書籍が下記。
邦訳されていない良著が非常に多い。
①Clinical Orthopaedic Rehabilitation
いわゆるPTが行うようなメディカルリハビリテーションからATが行うようなアスレティックリハビリテーションまで、幅広く書かれている。かなり良著。一冊選ぶならこれか。
②スポーツリハビリテーションの臨床
日本語の文献ならこれがまとまっていて良著。
主要な傷害の管理に関して記述されている。
③〇〇のスポーツリハビリテーションシリーズ
肩のほか、脊椎・股関節・膝などがある。
元々はスポーツドクター向けに書かれた本をリハ職向けにリライトしているもの。
MDやPTと関わることの多いトレーナーなら読んでおきたい。
D)S&C系統
ストレングス指導に関する書籍で推奨されるのが下記。
メディカル系統の人間でもこの分野に関する知見は持っておきたい。
①(いわゆる)『エッセンシャル』
言わずと知れた有名な専門書。S&Cに関する入門として良著。
メディカル職でもこれ1冊は持っておきたい。
②High-Performance Training for Sports
①の次点で推奨される著書。
それぞれの分野について著名な人によって書かれているのが特徴か。
エッセンシャルと同等かそれより少し詳しいか?
③スターティングストレングス
ウエイトトレーニングを指導するなら必携。
いわゆるBIG3とウエイトリフティング種目について、これでもかというくらい細かく書かれている。
④アスレティックパフォーマンス向上のための トレーニングとリカバリーの科学的基礎
特にリカバリーという点について集中的に学びたいなら。
②でも書かれているため、②があれば必要ないかも?
E)スポーツ栄養
あまりこれといった物が無い……。
概観を学んだ後さらに専門的に学びたい場合は論文に進むのが良いか。
①NSCA スポーツ栄養ガイド
日本語で網羅的に書かれているのがこれか↓のACSMの本くらいしかないように感じる。
②スポーツ栄養学ハンドブック
③Essentials of Exercise & Sport Nutrition: Science to Practice
邦訳されていないが個人的に推奨するのはこれか。
それぞれの要素について、生理学的な機序まで詳細に書かれている。
エルゴジェニックエイドについても詳細に記述されているのも◎でもここに書かれてる内容ってほとんどISSNのレビューのような
F)コーチング系統(特に運動学習に関する分野)
コーチングと言ってしまうと幅広すぎて困るが、とりあえず運動学習やキューイングといった分野について記述されている書籍で推奨するのが下記。
この分野はリハビリテーション、あるいはウエイトトレーニングで動作を指導する場合に非常に重要な視点を提供してくれる分野である。
一見「トレーナー」の知識とは離れているように思われるかもしれないが、動作を指導するのであれば必須の領域である。
①運動学習とパフォーマンス―理論から実践へ
運動学習における名著中の名著。
邦訳はずいぶん前にされてから改訂版に関しては触れられていない。
人がいかにして動作を学習するかという点に関して学ぶのに必携。
②Motor Learning and Control: Concepts and Applications
運動学習・運動制御について細かく書かれている良著。
邦訳はされていない。
個人的にはこちらの方が読みやすかった。
③Successful Coaching
↑2冊が理論的な話であるとすれば、もうすこし実践に落とし込んだのがこの著書。
少し古いが非常に良著。
④The Language of Coaching: The Art & Science of Teaching Movement
キューイングについて徹底的に書かれている書籍。
読み物として。
その他に推奨したい著書
複数分野にまたがる内容だが、読み物として読んでおきたい本が下記。
①ムーブメントーファンクショナルムーブメントシステム:動作のスクリーニング,アセスメント,修正ストラテジー
FMS(Functional Movement Screen)を中心にしている書籍であるが、それ以上に「動作の修正ストラテジー」という点について様々な示唆を与えてくれる良著。
②コンテクスチュアルトレーニングー運動学習・運動制御理論に基づくトレーニングとリハビリテーション
割と有名か。
運動制御理論・運動学習理論に基づいたウエイトトレーニングのあり方を提唱している。
提唱されているウエイトトレーニングについては賛否あるため置いておくとして、ここで記述されている運動制御・運動学習の理論は非常に重要な視点であるため一度は読んでおきたい。
内容が難しいと言われているが、要点(動的システム理論、制約主導のアプローチなど)を押さえてそれに関連する文献を読めば言っていること自体はそこまで難しくないと思われる。
③デクステリティ 巧みさとその発達
個人的に一番推奨したい著書。
専門書ではなくエッセイと言った方が近いが、しかし身体運動の制御に関して非常に重要な視点を提供している。
↑でも列挙している「動的システム理論」や生態学的理論、注意と運動学習、学習の転移といった、現在の運動制御・運動学習理論で非常に重要な概念について独自の視点で記述している。
驚くべきは、ここに書かれている物は近年のものではなく、出版自体が50年以上前、作者の思想としては80年近く前のものであるという点にある。
数十年前の思想が今になって科学的に正しさが証明されており、また様々な科学的示唆を与えている点は興味が尽きない。
動作を指導するという点について、様々な重要なメッセージが残されているため、この本は是非一度読んでおきたい。
後記
追記があったらおいおい追加します
「〇〇がないのはエアプwwww」みたいなコメントは勘弁してください
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