見出し画像

サウンドデザインの可能性

あるハードウェアを製造・販売している大きな企業のインハウスデザイナーさんとお話しさせていただく機会があり、サウンドデザインについて話を進めていると「うちのデザイナーはハードの表面的なデザインはできるが、ブランディングやUXなどのデザインにはほぼ理解がないんです…」と半ば嘆いておられた。

これはサウンドのデザインも同じ事がいえると感じます。

発車メロディーの機能とデザイン

以前、駅で上下線が同時発車になった時がありました。もちろんメロディも同時再生されるのですが、2つのメロディは微妙にズレてて、とてつもなく調和されていない音楽がホームに鳴り響きます。たまたま側にいた海外からの旅行者が「pretty terrible」と苦笑しながら会話をしているのが耳に入り、「ですよね…」と思う自分もいて。

発車メロディそれ自体はデザイナーさんが入り、尺であったり、メロディ運びであったり、しっかりと設計されています。
一つの駅でいくつもメロディーの種類があるのは、路線や上下線の違いを音でも理解してもらうためであったり。また、そのメロディが単純な繰り返しではなく、そこに音楽的な展開があるのは、利用者に「メロディーの後半が聴こえた=もうすぐ電車は動き出す」と認識してもらうためとの事(それにより駆け込む乗車が増えているという話もがあり、試験的に発車メロディを中止したこともあったようですが)。サウンド自体には、そのようなデザインが施されているのがわかります。

サウンドにおける「広義のデザイン」

サウンドデザインとして「発車を伝える」という第一の機能。
さらに、それがどういう環境で鳴るのか、どういう状況が想定されるのかという「広義のデザイン」視点で考えると空間を巻き込んで、より伝わりやすい発車メロディーを考えることができるのかもしれません。

たとえば、スピーカーの位置を上ではなく横に設置するとか。最近設置が増えてきているホームドアに埋め込んだり、柱の設置したりして。
上に設置する理由で考えられるのは、音はシャワー状に広がっていく特性があるので、より広範囲に音を届けたい場合は天井吊りが良いという考え方からだと思います。そうなると、発車ベルはホーム内やその周辺の広範囲に聞こえる方が良いのかな?聞こえた方がいい人・聞こえなくてもいい人って分けられるのかもしれないと考えはじめます。電車近くを歩いている人は危険ですからもちろん聞こえた方が良いですが、前述したような駆け込み乗車を防止するために、今ホームに行こうとしている人にはハッキリとは聞こえなくてもいいのかもしれない。
横から鳴ると上下線の違いも聞こえる方向で更にわかりやすいかもしれない。視覚障害者にも良いかもしれない。

たとえば、メロディーはできるだけシンプルなものにして、テンポ感や、音階の範囲に大きな差をつける方法で聴認性(視認性ではなく)を上げるとか。
メロディがシンプルなので重なり合って鳴っても複雑な鳴り方にはなりにくく、音階も調整すれば不協和音も避けられて。上り側は遅めのテンポ・やや低めの音階で落ち着いた印象、下りは早めのテンポ・やや高めの音階で快活な印象にしたり(音階の高さは人が聞こえやすい周波数内で)...とかとか。

ご当地感のある有名曲から引用したりして、ブランドロイヤリティの向上を図っている駅もたくさんあるので、その点も含めて考えを深めるのももちろんありですね。
UX/UI、ブランディング、更にはマーケティングも。サウンドデザインに複数のデザインが絡み合って一つになる、その可能性にとても面白さを感じています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?