1980 ②

地獄の黙示録

1980年。この年とんでもない映画が上映された。地獄の黙示録だ。突然カンヌ映画祭に現れるや話題騒然。もう凄かった!
編隊を組んだ戦闘ヘリ数機が、海面スレスレで敵地へ向かうシーン。ナント!ヘリからワルキューレの騎行を大音量で流しながら攻撃。
その後、ヤシ林をナパーム弾で火の海に。それをバックに「良い波だ」とサーフィンをするアメリカ兵。もうガイキチ1000人力位の変態シーン。
当時CGなんか影も形もない時代。イッタイどうやって撮ったんだ?と思っていたら、本当にナパーム弾で火の海にしたらしい!!!マジかよ???
ピカピカの中坊一年生には衝撃の映画だ!春先観た映画だが、夏になっても余韻が半端ない。
昼休みの体育館裏で、オイラは同級生のりちゃん&つっちゃんに激アツで語っていた。
地獄の黙示録!サイコー!
観てない二人は口アングリで、オイラの熱弁に聞き入っていた。

そこに突如
「ウッセェーなぁ!」
とドスの効いたボイスが後から…。
振り向くと物陰からジャンゴリ…こと…三年生の内田先輩殿が!
この内田先輩、中学三年生にして身長180センチ。柔道部主将にして中学校一のワル!まさにジャンボゴリラ。
くわえたタバコを放り投げると、ツバを吐いた。
スキンヘッドでチョットいった目が睨んだ。オマエはカーツ大佐か?
ふぇ〜!
しゅんましぇ〜ん!
オイラ達3バカトリオが、ダッシュで逃げ出したのは言うまでもない。

昼休みが終わると清掃の時間だ。週一回、当番で決まった場所の清掃をする。今週の3バカトリオはトイレ清掃当番。
3バカが真面目に清掃するわけがナイ。デッキブラシをマイク代わりに歌い出すつっちゃん。ホウキでエアギターののりちゃん。何故かゴーゴーダンスのオイラ。歌は RCサクセション!
ノリノリタイム満喫。と!そこで突然動きの止まるのりちゃん。
「あれ〜、なんかクセ〜」
「あ?」
つっちゃんとオイラが顔を見合わせる。鼻の穴を開いて深呼吸。
「お!クセェ!クセェ!」
つっちゃんがシャウト。
見ると、大の便のドアが閉まって使用中らしい。
三人でそーっとドアの下を覗く。チラリと足元が見えた。
つっちゃんが声を潜めて
「誰かウンコしてるぞぉ」
ニヤリと笑った。
つっちゃんがバケツ一杯に水を汲んできた。
「掃除、掃除!」と言いながら、汲んだ水を勢い良く流し込む。流し込む先は、件のドアが閉まる下の隙間。バッシャーン!
調子にのった3バカトリオ。「掃除!掃除!」とシャウト。次から次へバケツに水を汲んで、ドアの下へ放水攻撃。最後はドアの上からトドメの放水。
「しゅーりょー!」
つっちゃんの号令で清掃終了。
意気揚々と三人はトイレを引き揚げた。

良い子三人組が教室を戻ろうと、廊下を歩いていた。
「いや〜、臭いトイレをキレイにすると気持ち良いよな〜」
「ンダ、ンダ」
「そうだっぺ」
そこでタダならぬ殺気を感じとったオイラ。足を止めて振り返る。
ずぶ濡れのジャンゴリ様が立っているじゃ、あーりませんか!オイオイ。何でジャンゴリ様が?しかもずぶ濡れ?顔が般若の面だし。
もしや!
…。
つっちゃんとのりちゃんも足を止めて振り返る。歯茎が飛び出るほど口を開いて、鼻の穴全開。目も5ミリ位飛び出たままフリーズ。
「オマエらか?」
ジャンゴリ様のドスが効いたセリフは、今日二度目だ。
その瞬間、オイラの顔面にグーパンチ。一瞬空中遊泳。続けてつっちゃん&のりちゃんも空中遊泳。三人編隊の空中遊泳。ワルキューレの騎行。
まだまだ怒りのおさまらないジャンゴリ様が迫ってきた。

この日、ボコボコにされる。の意味をシミジミと知るに至った。
オイラ達三人は、この日を「地獄の黙示録」こう呼んでおります。


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