フランスの持参金制度(1)-男性の社会的経済的解決策・成功のチャンスとしての結婚
[記憶だけを頼りにざっと書いてます。間違いもあるかもしれません。詳しい方による間違い修正歓迎]
フランスでは、中世から第二次世界大戦後まで持参金制度が続いていました。結婚時に女性が親に持参金をもたされ、その持参金を夫に預け婚姻期間中ずっとそれを夫が管理運用する制度です。夫が死んで寡婦になったりすると残り(増えている場合もあれば減っている場合も、ゼロになっている場合もあります)は返されます。
日本では、(最近はだんだん違ってきていますがいまでもちょっと尾を引いている傾向として)、女性の上昇婚志向や、玉の輿婚はわりと社会的によくあることでした。フランスでは、日本とはちょっと逆で、結婚に、社会的経済的レベルアップのチャンスを期待する男性が、日本よりは多分かなり多めです。持参金制度があった時代の、「女性の持参金で事業を始めたい/大きくしたい、そのためには結婚相手は多少おばさんでもブスでもいい(若い美人は愛人として付き合えばいいから)みたいな感覚がどこかに尾をひいています。
(もちろん現代フランス人男性が全員金目当てという話ではなく、ここでしたいのは、ちょうど日本社会で女性が結婚で社会的経済的地位を向上することがわりとあったように、フランスではその逆が長かったことと、その理由(持参金制度)についての話です
カトリーヌ・ド・メディシスがのちのアンリⅡ世の妻としてフランスにむかえられたのも金目当てでした。カトリーヌは芸術教養に秀でるばかりでなく、しばらく事実上国政を切り盛りするほどの才女でしたが、肖像画にも残っているように容貌には恵まれず、アンリⅡ世はディアンヌ・ド・ポワティエ(アンチエイジングしすぎで死んだ人w。美容のために金を飲用し中毒死だそう)とずっと浮気していてカトリーヌもそれを黙認していました。
(ちなみに金目当てで結婚された女性はカトリーヌ・ド・メディシスだけではないんですが最も有名な例としてあげときます)
男が金目当てで女と結婚するのは王侯貴族の世界だけではありません。たとえば19世紀の食料品店のうち15%は奥さんの持参金で開業されたものです。
女ばかり追い回してる男をcoureur de jupon(スカートを追っかける人)といいますが、持参金目当てで女を探す男をcoureur de dot(持参金を追っかける人)と言いました。
モーッパッサンに「持参金」というそのものずばりのタイトルの短編でモーパッサンも短編で19世紀の持参金目当ての結婚詐欺の話してます。(原文フランス語で読みたい人はこちら)。バルザックも持参金ネタ大好きでした。
モーパッサン「持参金」については邦訳も出ていますので、etretat氏の紹介ブログをご参照ください。
少し補足させていただくと、この話の新婦さんの捨てられ方がとってもかわいそうです。ブルジョワの娘で新婚さんのラブラブなパリ旅行だというのに乗合馬車(omnibus 下の写真参照)に乗せられます。今でいえば、タクシーの代わりにバスのるような感覚です。
男は「ちょっとタバコ吸ってくる(から外席に出る)」といったままドロンしてしまって、捨てられた新婦は終点でおろおろ。持参金全額、持ち逃げされてしまったのです。
【閑話休題】「ちょっとタバコ」でそのままでドロンといえば、ジェーン・バーキンの歌う「ニコチン」(作詞作曲ゲンズブール)の歌詞もそうでしたね。
Il est parti chercher des cigarettes
En fait, il est parti
彼、タバコ買いに行くって出てったんだけど
そのまま出てっちゃったのよね
https://www.youtube.com/watch?v=MotWipVlJ-A
以上は持参金詐欺・結婚詐欺の話ですけど、このように結婚相手に詐欺られてドロンされなくても、女性が持参金でもってきたものの資産運用権は結婚とともに夫にわたってしまう。いってみれば運用間違えてゼロにされるリスクや全部、酒女博打や失敗に終わった起業などで、すられてしまう可能性ももあるわけです。
「・・・こんな持参金制度って女は何か得することあるの???」というのは、ググるの面倒くさいので放置していた私の長年の疑問だったのですが、思い立ってぐぐったら、早速「女性にとってはものすごく損な持参金制度」というタイトルの歴史雑誌の記事が出てました。全部読むのにはお金払わなくちゃいけないので全部読んでませんが、見出しでも「持参金制度は女性の地位をおとしめてきた」と書いてあります。やっぱりな。https://www.lhistoire.fr/la-dot-une-tr%C3%A8s-mauvaise-affaire-pour-la-femme
【追記】フランスのアンシャンレジーム下の女性(とくに寡婦)の財産制度についてのアントワネット・フォーヴ=シャム―氏の論文を昔自分が翻訳していたことをすっかり忘れてました(読みたい人はこちら『歴史人口学と比較家族史』(2009年早稲田大学出版局)に収録されてます)。その論文をひっぱりだしてみると「フランス」ではやっぱり主語が大きすぎで(反省)、北の慣習法地域(夫婦財産制)と南の成文法地域(嫁資制)ではいろいろ違いまする。でもその話はまたいつか。
持参金の話はまたしばらくしたら続き書きます。次は多分、19世紀の出会い系サイトともいえる、結婚雑誌の、結婚相手募集のアノンスおよびモンテルランの小説の話です。
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