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映画監督・大九明子さん 『私をくいとめて』監督とお話して気づいたジェンダー視点のやりすぎ

2021年1月30日に、私はトークショーの司会を行った。リモート開催だ。

「今、日本の女子サッカー界は、けなげな「なでしこ」のイメージから「ウーマンエンパワーメント」というキーワードで動き出そうとしています。ただ、現場からは期待とともに、変化への戸惑い、不安の声も聞こえています。映画監督やサッカー経験者との会話からより自由なジェンダー論を展開します。下のリンクから動画をご覧いただくことができます。」

スペシャルトークの素敵なゲストは女性3名

大九明子(映画監督『私をくいとめて』)
栗林藍希(女優、アルビレックス新潟レディースU-18出身)
日々野真理(フリーアナウンサー)

今回のnoteでは、特に大九明子監督とのお話を取り上げる。大九明子監督は、今、私が最も注目する映画監督。私は最新作を公開初日に見にいっている。だからこそ気になる、最新作の中の3つのシーンについて聞いてみたかったのだ。そして、そこに、WEリーグが進めていこうとしている理念やビジョンの浸透の鍵があると考えたのだ。

最新作は、のん主演の映画『私をくいとめて』

「女子としての生きづらさ」なのか? 違うのか?

私はスペシャルトークの中盤で大九明子監督に質問した。

石井--大九監督、映画『私をくいとめて』の中には「女性の芸人が酔ったステージに上がってきた男性に抱きつかれるシーン」「お茶汲みをする女性2人のシーン」「打合せに出かけるときに靴をハイヒールに履き替えることは忘れないが傘は忘れる上司のシーン」が登場します。これ、まさに男性社会の中にある「女子としての生きづらさ」だと私は感じたのですがいかがですか?

しかし、大九明子監督は、その意図を、あっさりと否定したのだ。

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大九--私は、そういうことを声高に、映画の中で描こうとしたことがないです。(中略)私の視点で描くとこんな感じです。

それが大九明子監督から開口一番の返事。私の質問に対して、大九明子監督は丁寧に3つのシーンの意図や登場人物のキャラクター設定を解説してくださった。3つのシーン共に、大九明子監督は明確に否定されたので、私は、このスペシャルトークの中で「勘違い」に頭を下げた。これは、大九明子監督が説明された通りに、目の前に起きている出来事を、そのまま映画の中に盛り込んだ描いただけだったのだ、と素直に思ったからだ。

配信終了後に2回見直して感じる、これらのシーンの別の意味

しかし、配信終了後に繰り返し見てみると「女性の芸人が酔ったステージに上がってきた男性に抱きつかれるシーン」「お茶汲みをする女性2人のシーン」については、やっぱり疑問が残った。「声高に描こうとしていない」という大九明子監督の意図は、直接、お話していただいたので明らかだ。ただ、シーンそのものは、どう見ても「ジェンダー問題」「男女平等」「セクシャルハラスメント」で「問題だ!」と取り上げられる出来事が描かれているのだ。

「どう見ても」なのか「どこから見てる」のか?

でも、もしかすると「どう見ても」ではなく「同じ出来事を違う角度から見ている」のではないかとも思った。「ジェンダー問題」「男女平等」「セクシャルハラスメント」で「問題だ!」と見える角度から見て声高に叫ぶのか、それとも「こういうことあるよね、どう感じるのか見てね」と見える角度から伝えるのか、私と大九明子監督では、その見ている場所と角度が違うのではないか。スペシャルトークを終えた夜に、そう考えていると、一つの運動のことを思い出した。

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戦闘意欲満々 #KuToo 運動思い出

#KuToo 運動の講演を聞きに行ったことがある。#KuToo 運動は石川優実さんが始めたヒール・パンプス強制への反対運動のこと。その講演は極めて面白く、私の知らない女性の苦痛を知ることも出来て良い経験となった。パンプスの強制は明確にハラスメントであると感じた。しかし、その後、Twitterで #KuToo 運動の会話を見て、その戦闘意欲満々のやり過ぎ感が自分には合わないと感じて私は逃げ出し #KuToo 運動から距離を置くことにした。

大九明子監督と共通項が感じられる『フートボールの時間』豊嶋了子教諭のお話

先日、WEリーグの理念、ビジョン、具体的な取り組みについて、豊嶋了子教諭に質問した。豊嶋了子教諭は高校演劇『フートボールの時間』の生みの親で、現在は、観音寺第一高の演劇部顧問をされている。

石井-WEリーグは参入クラブの「運営にあたる法人を構成する役職員の50%以上を女性とする」「意思決定に関わる者のうち、少なくとも1人は女性とすること。(取締役以上が望ましい)」と定めました。女性リーダーシップ・プログラムも実施しています。こうした取り組みへの感想はいかがですか?

豊嶋–女性の問題への取り組みにこだわりすぎの印象もありますね。実際には、今までも女性が頑張っていないわけではない。でも、あまりこだわって発信しすぎると、今までやってこなかったからWEリーグが初めてやっているような印象を受けてしまう。WEリーグが、ここまで主張しなくちゃいけないのかな? と感じるところがあります。今まで女性が社会に進出できていなかった理由を知った上でWEリーグのメッセージを見ないと、WEリーグのメッセージを上っ面のメッセージと感じてしまう人がいるかもしれません。

やっぱり、違いは角度ではなく強弱かもしれない

JFAの『サッカー×キャリア×未来~Your Life withFootball~』にも登場する「スポーツとジェンダー・セクシュアリティ」の専門家・野口亜弥さんが、スペシャルトークを見てツイートしてくださった。このツイートは、私に自信を授けてくださるものだった。

同じ出来事を見る角度が違うのではなくパワーの多様性がある。声高に前に出すだけなのか、周囲に合わせるのか、その違いが重要なのではないか。最終的に、私の結論も、このツイートに近くなった。大九明子監督は、声高に運動として叫ぶ手法を取らなかった。でも、エンターテイメントとして、気になる出来事を「私の視点で描くとこんな感じ」だったわけだ。

WEリーグが進めていこうとしている理念やビジョンの浸透が遅れている。そもそもWEリーグの理念やビジョンに共感できないと表明している元選手もいる。もっと「露出を増やせ」という声がある。でも、もしかすると、露出の量だけでは解決しない問題なのかもしれない、と、私は考え始めている。

大九明子監督の作品は、こちらも見てくださいね。


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