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心が開いていないと言葉は届かない。

台風の名残の蒸し暑さのなか、桜並木でバスを待っていると、桜餅のにおいが漂ってきます。
桜の木の香りが、空気中の水分に含まれて、並木道に満ちています。
おいしそうな匂いをいっぱい吸いこんで、やってきたバスに乗り、クリニックを目指します。
暑いしだるいし、家で寝ててもいいんじゃないかと思ったりしますが、なんの、今日は月に一度の名誉院長とお会いする日です。

バスと電車を乗り継いで、クリニックへ。
今日も、87歳の名誉院長はお元気です。
その笑顔を見るだけでも、嬉しいです。
顔を見るだけでも嬉しい人って、めったにいるものではないですよね。

診察室では、最近の私の老障介護の様子を話します。
昨年末からの名誉院長のアドバイスを、長女に対して実行していること。
はじめのうちは、「なんで、私が先に謝らなくてはならないの。」とか、「なんで私がごめんなさいと言わなければならないの。」などと思いながら、
「ごめんね。」
「ありがとう。」
「今日も元気でえらいね。」
「大丈夫だよ。」などと長女に言っていたのですが、最近は、自然に言葉が出てくるようになったこと。
そして、相手の目を見て話すことができるようになったこと。
など話しました。

すると、名誉院長は、
「私もね、つらい思いをたくさんしてきたんだよ。
そして、相手にどうしたら、自分の言葉を伝えることができるのか考えたんたんだ。
それでね、わかったのは、相手の心をどうやって開かせるかということなんだ。
相手の心が開いていなければ、こちらの言っていることは何も届かない。
だからね、相手にまず、こちらからありがとうって言うと、相手がすっと静かになる。それから、話をすると聞いてくれるんだ。」

「あなたは今まで、自分が世界で一番大変でつらくて不幸だと思っていたから、長女に対して、怒りながら話をしていたんだよ。
長女には、おかあさんが何を言っているかなんてわからない。
とにかくおかあさんが怖い顔しているとしか、長女には伝わっていなかったんだよ。」

そうですね。
長女が心を開いてくれないときに、とげとげして話をしていたら、よけい心を閉ざしてしまいますね。
心を開く。
簡単なようで難しいこと。
相手が心を開くには、こちらを信頼して、安心してくれないと。
そのためには、私が先に心を開くこと。

それは、長女に対してだけのことではなくて、私の周りの人たちに対してもですね。

蔑まれたり、差別されたり、言葉の暴力を受けてきた私は、世界に対して、人々に対して、かたくなな心で、囲いを作ってきました。
もちろん、自分自身を守る境界線は必要ですが、もう少し世界に対してやさしい心で接していこう。
そうしたら、私の心も柔らかくなるかもしれません。

知的障害で、自閉スぺクトラム症で、躁病の長女との暮らしは、何年たっても、私の心をきらきらと輝かせてくれます。


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