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淪落の人:香港の新しい映画

香港映画が好きな人なら、みんな知ってる「アンソニー・ウォン」
インファナル・アフェアをはじめ、数えきれないくらいのアクション映画で大活躍してきたスター。
その彼が、ノーギャラで主演している。

ノーギャラでの主演といえば、「海洋天堂」の「ジェット・リー」を思い出す。
ご両人とも、なんという懐の広さ。
いい映画なら、ノーギャラで出演し、若い監督を育てる心の深さ。

海洋天堂のジェット・リーは、自閉症の息子を育てる末期癌の父親役。
残していく息子の行く末に悩むシングルファーザー。

淪落の人のアンソニー・ウォンは、事故で首から下がマヒした障害者で、妻と離婚し、息子はアメリカの大学にいき、香港の公営住宅に一人暮らし。
軽やかに走り、銃を撃つアクションスターのオーラを消して、両手もうまく動かせない不自由さを演じる。

淪落の人

食事もうまく食べられない。補助具のスプーンをベルトで固定して食べる。
トイレも、車いすへの移乗も一人ではできない。
そこで、やってきたのが、広東語がしゃべれないフィリピン人の家政婦、エヴリン。
初めのうちは、意思疎通もできず、冷たく当たっていたが、エヴリンが写真家になる夢をあきらめようとしていることを知って、応援し始める。
エヴリンは、休みの日に、香港の家政婦仲間と、雇われ先の事情などを語り合う。
家政婦仲間の一人が、下の世話まである障害者なんて、最悪の職場だから、変わった方がいいなどと言う。
みな、子供がいない家とか、ケアのない楽な職場を探しているのだ。

アンソニー・ウォン演じる、チョンウィンは両親を早く亡くし、年の離れた妹を育ててきたが、その妹とも今は疎遠になって一人暮らし。
「毎日座っているだけだ。」と言い、もうこれ以上落ちていくところもない、人生どん底、淪落の人。
家政婦のエヴリンは、写真家の夢をあきらめて、狭い公営住宅の住み込み家政婦。
どん底の二人が、この先どのように人生に向き合っていこうかという時、チョンウィンはエヴリンの写真家になる夢を応援することで、生き生きとし始め、エヴリンは、香港の写真を撮り始め、新しい道が開けていく。

淪落の二人が、お互いの良さを見出し、新しい人生を歩みだす。

オリヴァー・チャン監督は、初の長編映画。
母親が脊髄損傷で車いす生活になり、姉が介護していたそうだ。

制作は、これも香港映画ファンなら、だれでもしっている、フルーツ・チャン監督。
お金がない新人監督を、ベテランの監督と名優がサポートして、この上ない後味のいい映画ができた。

淪落は、白居易の琵琶行。天涯淪落の人。なんぞ必ずしも曾て相職らんや。
からとったそうだ。


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