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炎天下自転車爆走要介護認定調査員

これは、15年ほど前のお話です。
介護支援専門員の資格を取り、特養を辞めて、有料老人ホームのケアマネの仕事に就くも、施設長のパワハラにあい、労基署に訴えて2年で退社。
その後、市役所の高齢者支援課で、要介護認定調査員の仕事に着きました。
さすが市役所、きちんと仕事を教えてくれます。
それまでの特養や有料と違って、そこはしっかりしていました。
おかげさまで、すぐにひとりで、認定調査にいくことができるようになりました。

認定調査は、申請者が暮らしているところで行うので、調査員がそこまで出向きます。
市内の施設、病院、在宅の方のところへは、自転車で訪問。
市外の施設、病院、ご家族宅の方のところへは、バス、電車を利用しますが、隣県などかなり遠いところへ訪問することもしばしば。
都内でも奥多摩、青梅、八王子などの施設や病院が多く、スニーカーを履いて、一日に数本のバスを利用することも多かったです。

介護保険を申請する人は年々増加し、一日何件も何件も、調査をしても調査をしても、また次の日には新規や更新、区分変更などの申請書が山積みになります。
仕事は多いのですが、調査員が少なすぎです。
市役所での調査員は全員非常勤でした。
市役所の正規職員は、数年ごとに部署を移動しますので、専門職は、非常勤が多いのです。
非常勤ということは、収入が少ない。
仕事は多く、専門的だが、収入は少ない。
これでは、やはり、働きたいと思う人は少ないでしょう。

おまけに、市内の移動は自転車。
真夏の炎天下、心臓が圧迫されるような苦しさを覚えたとき、この仕事早くやめようと、つくづく思いました。
真冬の木枯らしの中、北風に向かって自転車をこぐとき。
雨の日、合羽の上下を着て自転車をこぐとき。
なんで、訪問看護も、訪問介護も、認定調査も、移動は自転車なんだ。
ふざけるな!と怒りがわいてきます。
(利用者さんから、市役所は車を利用させてくれないのですかと同情されたことがあります。)

けれども、突然、発作を起こして倒れた方や、急に病気になられた方、中途障害になられた方々が、不安な気持ちの中で、勇気を出して申請されたのだと思うと、自転車をこぐ足に力が入ります。

それまで、何の心配もなく、健常者として暮らしていた方は、ショックも大きいし、情報の取り入れ方も、福祉サービスの受け方も何も知りません。
障害者として、障害福祉サービスを受けてきた方が65歳になると、介護保険の認定調査を受けます。

福祉サービスは、障害者と高齢者と別れていて、縦割りです。
高齢者福祉の方のケアマネは、障害者福祉について、全く知らない方も多いのです。
ケアマネや調査員のなかには、障害者の方を「わがまま」と言い切る人もいたし、「障害のある人は、障害者手当で裕福な暮らしをしている。」と思い込んでいる人もいました。
そんなに手当が出るなら、私この仕事してないわ。

でも、たくさんの方々にお会いし、沢山の体験をしました。
訪問をするということは、きつい仕事ではあるけれども、その方の暮らしを知るという意味では、何回もの面談より、よく理解ができるものだと知りました。

ごみ屋敷も、ネグレクトの家も、たくさんありました。
普通のマンションの一室が、「まさか、こんなことになっているとは!」という状態も多いことを知りました。

なぜか、怒鳴るご家族、クレイマーのご家族、怒りをぶつけてくるご家族は多いのです。
たぶん、突然の出来事、突然の変化に怒りが湧いてきているのでしょう。

この仕事をしていて、怒りをぶつけてくる方への対処のしかたも、うまくなってきました。
でも、怒鳴るとか、大きな声で罵倒するとか、圧迫するとかいうのは、いかなる場合でも私はしたくないです。

人と向き合う時は、相手を尊重して、静かに丁寧にお話をしていきたいものです。

市役所の非常勤になった本当の理由は、60歳で入学した臨床心理大学院での勉強を続けるためでした。
土曜、日曜が休みだと、日本校のスクーリングにも通えるし、定時で退勤できるので、夜に一時間くらい、オンラインのディスカッションに参加できるからです。
おかげで、3年間の大学院の課程をきっちり、3年間で修了し、臨床心理学修士となることができました。

アメリカの臨床心理大学院はオンラインで、入学した時は同期は27人。三年で修了できたのは11人ほどでした。
3年次の実習は、週に一回一日カウンセラーをするというものでした。
私は大学病院の循環器病棟に毎週通い、月に一度はスーパーバイザーのところへ行きました。
修士論文は「女性の自閉スペクトラム症の包括的支援」に関したものでした。

びっくりしたことは、9月に大学院を修了したとたん、10月からの社会病理のゲスト講師に呼ばれたことです。
実力があれば、すぐに、講師の仕事が来る。
これは日本の大学院ではありえないことでしょう。

これを機に、私は、介護専門学校の講師の仕事も始め、認定調査員の仕事を辞めました。
市役所からは、もう少し働いてほしいと言われたのですが。
人手不足なのですよね。

日本の高齢者福祉は、もはや行き詰っています。
介護が必要な人は増える。
介護する人は増えない。
高齢者、障害者、病気の人、子どもなど合わせて考えると
介護が必要な人と、介護者は、いまや、一対一ぐらいの割合ではないかと思います。

老老介護、認認介護、老障介護、障老介護、障障介護。で何とかやりくり。
日本中が、ヤングケアラーとオールドケアラー。

それなのに、なぜか、ひとごとみたいに暮らしている。
自分だけは大丈夫という、根拠のない楽観性。
不思議な世の中です。

沢山の老いとたくさんの死について、見て、考えてきたことは、自分のことを考えるときにとても、参考になっています。
格好よく、きれいに死ぬとか、死んだ後迷惑をかけたくないとかいう人も多いですが、まあ、そんなに思うようにはいかないものです。
人は生きている時も、死んだときも、周りに迷惑をかけるものです。


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