見出し画像

見えないケア、見えない支援

「見えない家事」という言葉を、数年前から聞くようになった。
これは、「料理」とか「掃除」とかはっきりした名前のついていない、ちょっとした家事のことを指しているようだ。
「名もなき家事」とも言われているようで、日常生活のちょっとしたことを意味している。
でも、日常生活は、ちょっとした事の連続なので、どれが「見えない家事」なのかわかりにくい。
たぶん、「気働き」みたいな、気が付いた人がちょこっと行うようなイメージなのかもしれない。

しかし、生活をするということは、なかなか複雑で、面倒くさくて、自分が心地よく過ごせるようにと環境を整えるのは、かなり大変なことである。
自分自身で、自分の生活を整えようと思う人は、家事のすべてを行う。
でも、同居人がいる場合、相手に頼ってしまう人がいることは確かだ。
子どものころから、母親がすべて整えてきてくれた環境にいた人は、心地よいのが普通のことであったろうから、それが当たり前だと勘違いしてしまい、周りが何でもやってくれると期待してしまう。

しかし、生活するということ、生きていくことは、雑用の連続なので、その雑用のあいだに、仕事をしたり、学校へ行ったりすることである。
決して誰かが、整えてくれた環境にいることは当たり前ではないのだ。

そんなことを考えていたら、ケアも同じだなと気がついた。
「ケア」「支援」とは何だろうと考えると、
「食事介助、入浴介助、排泄介助、コミュニケーション支援、リハビリテーション」などと、役所のパンフレットのような言葉が上がってくる。
それはそれで、間違いはないが、生活の中での「ケア」「支援」と考えてみると、それはほとんどが言葉にできないような「ケア」であったり、他の人には(当事者以外には)見えない「ケア」であったり、説明が難しいような「ケア」であったりする。

それはつまり、「ケア」が必要な人の生活を維持していくため、周囲がどのような配慮をしていくかということである。
そんなこと知らないよという人にとっては、他人ごとだろう。
だが、「ケア」が必要な人に対しての「ケア」は、誰が行っているのか。
他人ごとと考える人は、ヘルパーや看護師などが、仕事として行うものと言うだろう。

しかし、「ケア」は人間の行うものであり、人間関係が介在するから、介護報酬の計算のように、数字や言葉で割り切ることができない複雑なものなのだ。「仕事」の一言では割り切れないものなのだ。
ましてや、家族が家庭内で「ケア」をしている場合は、人間としてとても深いところに関わってくるものなのだ。

健常者と若者しかいない家に住む人には想像しにくいであろうが、障害のある人や、病気の人や、高齢者と同居している人にとっては、「ケア」は日常である。


それは、通所のデイケアの利用や、訪問のヘルパーや看護師の出入りや、通院介助などの「見えるケア」であったり、寝たり起きたりする毎日の「見えないケア」だったりする。
もしかすると、健常者だけの家庭で過ごす人は、「見えるケア」だけが「ケア」であると認識している人もいるかもしれない。
しかし、家庭においては、ほとんどが「見えないケア」の連続である。

毎日の食事も、発達障害で偏食やこだわりのある子供に対しての配慮だとか、嚥下しにくい人への飲み込みやすい食事の献立だとか刻み方など、一言では言い切れない大変さがある。それに伴う買い物の大変さもある。
服装と一言で言っても、感覚過敏の人の服の用意の大変さや、拘縮のある人が着やすい服を選ぶことの苦労もある。既製服では無理な場合は、お直ししたり、手作りしたりする。
睡眠障害のある人がいると、眠りやすい環境を整えるための防音や、照明や、眠りにつきやすいルーティンを考えたりする。
薬の飲み忘れを防ぐための手段、飲ませ方の工夫。
家族の病気や障害について知ること。家族会。
転ばないよう、床に物を置かないように気をつけたり、刺激になるようなものを片付けたり、パニックのスイッチが入らないように部屋を整えることや、ご近所への気配りなど、数え上げたらきりがない。

そしてなにより、家庭内での主介護者の精神的安定を心がけるということが、一番の重大事である。
ものや、環境は、お金をかければなんとかなるものが多いが、精神的安定だけは、お金では解決できない。

介護者が穏やかで、落ち着いた心で「ケア」ができること。
これこそが、周囲の人々が本気で気配りしてほしいことだ。
家庭内では、主に母親や、配偶者や、子が主介護者にあたる。
そこに、配慮がなければ、子はヤングケアラーとして苦労し、母親や、配偶者は自死まで考えるほど追いつめられる。

つまり、「見えないケア」とは、家庭内ではもちろんのこと、社会全体で行うものだ。
決して、おかあさん一人に任せたりしないで。
決して、他人事などと言わないで。
いつか自分の身に降りかかることなのだから。

よろしければ、サポートお願いします。老障介護の活動費、障害学の研究費に使わせていただきます。