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知っていますか?「ろう」と難聴、そのちがい。

こんにちは。eboardインターン生の國久です。eboardでは「やさしい字幕」検証を担当しています。普段は大学4年生として生物学を専攻しています。

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私は中等度難聴者です。普段は両耳に補聴器を使って生活をしています。今日はみなさんに「そもそも難聴ってどういう状態?」という基本情報から、難聴者として学び・教育での困りごと、eboardが行なっている活動についてお話しさせていただきます。

聴覚障害とは?

- 聴覚障害の種類・レベル
まず、ろう・難聴の原因となる聴覚障害とはどのようなものでしょうか。結論から言うと、聴覚障害は大きく「障害の部位」「音の大きさ」の2つの基準で分類され、それぞれ様々な「きこえかた」が存在します

まず、私たちが音を認識するしくみについてお話します。耳の部位は大きく外側から外耳、中耳、内耳の3つに分けられます。外耳では耳(=耳介)から音を集め、鼓膜まで伝えます。内耳では鼓膜の振動を増幅させます。その後、内耳で音の振動は電気信号に変換され、聴神経を通って脳に伝達されます。このような過程を経て初めて「音をきく」ことができます。

この時、障害を受けている部位によって聴覚障害の種類が大きく3つに分類されます。これが1つ目の基準「障害の部位」です。

①伝音難聴:外耳〜中耳にかけての障害。音が小さく聞こえるが、音を大きくすれば変わらず聞き取れる。手で耳を塞いだ感じ。中耳炎など。
②感音難聴:内耳〜聴神経〜脳にかけての障害。音が小さく聞こえるだけではなく音に歪みが生じる。突然のショック音で痛みを感じる場合も。先天性であることが多い。メニエール病など。
③混合性難聴:伝音難聴と感音難聴の合併。

また、きこえのレベル=「どの音がきこえるか」によっても分類されます。これが2つ目の基準「音の大きさ」です。軽い順、つまりより小さい音が聞こえる順に以下に示します。

①軽度難聴:静かな会話・ささやき声を聞き間違えることがある。
②中等度難聴:普通の大きさの会話がやっときき取れる。
③高度難聴:大声しか聞こえず、大声でも正しくきき取れない。
④重度難聴:かなり大きな音(ジェットエンジン)ならどうにか感じることができる。

ちなみに私は中等度難聴で左耳が感音性難聴です。水の中で鳴っている壊れたスピーカーのような音で、音を大きくしてもなんと言っているかは判別がつきません。

補聴器・人工内耳について

聴覚障害を持つ人がより生活を便利にするため使う補装具は日本では主に2種類あります。

①補聴器
耳にかけたり耳あなに入れて使用。外から取り込んだ音を機械で増幅し大きい音にして耳の中に再び送る。伝音難聴や軽度〜中度の感音難聴に有効

補聴器をつけた男の子 (1)

②人工内耳
内耳の蝸牛に電極を埋め込む手術が必要。外から取り込んだ音を電気信号に変え、内耳の神経に直接電気信号を伝える。内耳に障害を持つ重度の感音性難聴に有効

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皆さんも「(遠視で)目が悪くなった」時はメガネやコンタクトをつけますよね。特に不便はなく従来の100%に近い視力を取り戻せる方が多いと思います。

「耳が悪くなった」時には、補聴器・人工内耳をつけます。では、補聴器・人工内耳をつければ聴力は100%に近く取り戻せるのでしょうか。答えはNOです。聴覚障害は一般の「(遠視で)目が悪くなった」とは異なり、回復の困難な弱視に近いものがあります。

例えば、軽度の感音性難聴で、歪んだ音しかきこえない耳に補聴器をつけ、音を大きくしても、歪んだ音がただ大きくなるだけです。同じことが人工内耳でもいえ、限界がどうしてもあります。補聴器や人工内耳をつけることで余計人の声・会話が聞きとりにくく・判別がしづらくなる場合もあるのです。このように、補装具を使用すればきこえの困りごとが全てなくなるわけではありません。

ろう・難聴について

-「きこえないこと」がもたらす影響
ここまで聴覚障害の基本情報についてお話をしてきました。次は、このような聴覚障害を持つ子どもたちの困りごとについてです。

ろう・難聴の子どもたちは「きこえない」ことそのものが、生活や学習を妨げる障害になっているわけではありません。その聴力特性をうまく助ける(穴埋め)するコミュニケーションが十分でないことから、同じ年齢の子どもと比べて認知・社会性・学習上での問題が起こることが多くあるのです。

健聴の子ども、知的発達に遅れのある子ども、難聴・ろうの子どもの言葉の学びを、それぞれ「ビンに水を貯めること」に例えて考えると、以下の図のようになります。

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ろう・難聴の子どもの言葉のキャパシティ(ビンの大きさ)は聞こえる子どもと同じです。ですが、幼少期から聴力特性をうまく助ける(穴埋め)できる情報伝達方法が適切でない場合、ビンの口が狭くなってしまい、他の子どもたちに比べて貯められる水の量=言葉の数が格段に少なくなります。その結果、語彙の数やその概念の理解が不十分になってしまいます。

この、基本的な語彙の素地がないことが原因で、その後小学校・中学校での教科学習において、より難しい学習語彙・概念(数学のベクトルの概念など)を使った学習が困難になる場合が多くあります。

自分の可能性を広げる学習能力は十分あっても、適切な支援が受けられないと、きこえと言葉の問題によって学習能力が十分に生かされないのです。

ろう・難聴の学習面での困りごと

聴覚障害を持つ人を「ろう・難聴」と一括りに言うことが多いですが、この二者にはどのような違いがあるかご存知でしょうか。

①ろう:第一言語(主なコミュニケーション手段)は日本手話。ろう学校に通う場合が多い。全国に約8,000人存在する。
②難聴:第一言語(主なコミュニケーション手段)は日本語地域の学校の通常級に通いながらきこえの教室などの通級に週に数回通う場合が多い。 全国に約1〜3万人存在する。

ろうと難聴の大きな違いは第一言語です。手話(日本手話)は、主語・述語の順番が異なったり、助詞が存在しないなど日本語とは全く異なる言語です。そのため、手話を第一言語として手話のみで育ってきた子どもにとっては日本語の構造は馴染みがなく、一つ一つの単語の概念や文全体の意味を理解することすらハードルが高い場合もあるのです。

以下は、ろう・難聴それぞれに特有の学習面での課題と、それに対してそれぞれの学校で行なっている支援を示しています。

ろう
・第一言語が手話で日本語に触れる回数が極端に少ないと、日本語での読み書きが困難な場合がある。
・進学率が低い(テストはほとんど日本語で行われ、手話のみを使って進学できる教育機関は少ない)
・ろう学校では、発音指導、日本語文章の構成分解(主語・述語)、日記、作文、話し合いを重点的に行い、日本語の言葉の力をつける。

難聴
・通常学級において、授業・他の人の発表が聞き取れない/話し合いが苦手などきこえの問題で困っていても、支援体制が整っておらず見過ごされる場合がある。情報が十分に入らないという問題によって学力にも影響が出る場合がある。
・通級:きこえの問題に特化した先生が学級内での困りごとがないか確認する。障害を自己開示し周りの子どもに理解をしてもらう練習を行う。マンツーマンで作文や音読を通して、語彙を増やしたり言葉の支援を行う。

eboardの「やさしい字幕」について

- やさしい字幕とは
私たちNPO法人eboardは「学びをあきらめない社会の実現」をめざして、オンラインで学習ができる小学生〜高校1年生が対象のICTがサイトを運用しています。

コロナ禍においてeboardの利用者も増えた中、eboardサイト内の動画教材に関して、ろう学校の先生からある一通のお問い合わせがありました。

本校は、聴覚障害のある児童が120名ほど通う学校です。動画やアニメーションで「字幕」がつくと、さらに子どもたちは活用できます。一気に字幕をとは申しませんが、可能な限り、字幕表示をお願いできないでしょうか。

これをきっかけに、私たちは情報伝達や言葉に関する問題を抱え、字幕のニーズがある7万人以上の子どもの学びを保障する「やさしい字幕プロジェクト」という取り組みを始めました。このプロジェクトを通して、以下のような子どもたちに、学びを届けたいと考えています。

ろう・難聴の子どもたち
外国につながる子どもたち(日本語が苦手・未習得である)
・学習障害・自閉/情緒障害・認知発達など、学びの困りごとを抱える子どもたち

「やさしい字幕」は日本語での学習のハードルが下がるよう編集された字幕です。「やさしい日本語」の考え方をもとに、自動生成字幕→字幕の表示量の調整、言葉や文章構造の簡素化を行い、外国語への自動翻訳精度が上がるように作成しています。

現在、ボランティアの方々の協力により、eboardが公開する小学校1年生〜中学3年生の範囲の約2,000本全ての動画教材に「やさしい字幕」がついています。

まとめ

私は現在、ろう学校や放課後デイサービス・通級に定期的に通いろう・難聴の子どもたちに「やさしい字幕」を使ってもらう検証を行なっています。訪問する中で、ろうの子どもたちと普段から触れ合っている方の言葉で心に残ったものがあります。

今回のオリンピック閉会式(Eテレ)に、ろう通訳がついたことへの反響の大きさが、ろう者の今までの思いを物語っています。CMや番組、ドラマ・・・どれにでも、字幕と手話が付くことが私たちの最大の願いですから。選択の幅が増える、何にでもアクセスできるというベースの時点で、ろう者は、1歩、いや10歩も、聴者とは差があります。

私も、テレビや映画などを「字幕がないと見る気がしないなぁ…」と思ったり、学生時代、授業の声が聞き取りにくいという理由だけで、授業が理解できずその教科を苦手になってしまった経験があります。

ろう・難聴の子どもにとっては、健聴の子どもが当たり前に過ごす普通の生活を普通に楽しんだり、50分の授業を全て的確に聞き取り、十分に取り組むことすら難しい時があります。生活や勉強の中に「字幕がある」という選択肢があるだけで、ろう・難聴者にとっての可能性が何倍にも広がるのです。

eboardのやさしい字幕が、より多くのきこえの問題で困っている子どもたちに届くよう、これからも頑張ります!

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