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弱虫ペダルの陰で。ドライブ感最高の不遇な傑作、「まじもじるるも 魔界編」

全国の少年少女……だけでなく、運動不足の中年太りオジサンから腐女子の皆様まで、多くの人をロードレーサーに載せた恐るべきマンガ「弱虫ペダル」。

74巻、2500万部を売り上げて、なお疾走する弱虫ペダルを描き続ける渡辺航先生だが、弱虫ペダルの直前から平行して魔法少女マンガを描いていたのを知っているだろうか?

タイトルは「まじもじるるも」。「まじもじるるも」全7巻、「まじもじるるも 魔界編」全4巻、「まじもじるるも 放課後の魔法中学生」全9巻の合わせて20巻。月刊シリウスに2007年~2019年と12年連載され、「まじもじるるも」は J.C.STAFFによってアニメ化された。


あらすじ。

※ 今回は「まじもじるるも」については壮大なネタバレになるので、気になる方は読まずに本屋が電子書籍アプリかアニメ配信サイトへ!!



「不思議発見クラブに所属するが、抑えられないエロの追求心のためにヘンタイシバキと呼ばれる高校2年生の柴木耕太。コウタは魔界から来た無口で表情の乏しい修行魔のるるもと契約を結ぶ。

契約の内容は魔法のチケットを使って、るるもの魔法を使えるコト。そしてチケットを使い切るコトによって、るるもの修行は終わり念願の魔女になれるのだ。

だが、コウタとは違い、るるもは知らなかった。チケットがコウタの命そのものであり、チケットの終了=魔女=コウタの死であるコトを。その事実を知っていた使い魔のネコ、チロは話せなかったのだ、るるもが知れば魔女昇格を諦めチケットを使わせないコトを知っているから。

そして、その時はやってくる。修行期限を迎え、魔女昇格を諦めたるるもの前で、ある人助けのためにコウタは最後のチケットを使う。」

(ここまで「まじもじるるも」)


「コウタは仲間に見送られ、火葬場の炉に入った。チケットの真実を知ったるるもは、魔界の指示により自分を知る人間の記憶を消して地上を離れる。魔界に戻ったるるもは、やっとコウタへの思いを自覚してしまい、せめて一言伝えたくて友人の第一級魔女のハルリリ及びその取り巻きと、死んで魂晶となり保管されたコウタに会いに行く。

厳重な警備を越えてコウタの魂晶の箱をみつけたるるもは、思いが止まらずにコウタの魂晶の箱を持ち帰る。しかしコウタの魂晶は。

……なんやかんやで人造の体を得て女体化したヘンタイシバキ=コウタの魂晶、そしてるるもとハルリリたちは、るるもの魂晶盗難の罪に誰かに追加されてしまった「魔界の大事件の首謀者」の濡れ衣を晴らすため、記憶の消えた地上の仲間たちと再会しつつ、地上と魔界を駆け巡る追っ手たちとの大バトルに突入するのだった。」

(「まじもじるるも 魔界編」)


「まじもじるるも」全7巻、恥ずかしさから無口で表情に乏しいるるもの少しずつの変化を日常と共に描き、そこで貯め込んだものを一気に解放した最終回と「まじもじるるも 魔界編」のカタルシス。恥ずかしさも(コウタの前以外では)吹き飛び、解放された「魔界編」るるもの表情は、それはもう喜怒哀楽をフルに伝える。これ自体もカタルシス。

さらに「まじもじるるも」全7巻の重みは、他のキャラもしっかり沁み込んであるから、キャラがみんな走る走る。ホントに走るシーンも多いけど、「このキャラならこうする」という期待をさらに超えていく。さらに「まじもじるるも 魔界編」の新規のキャラも負けずに走る。

そしてキャラの走りを殺さない巧みな構成。地上→魔界→地上→魔界と走り回る、るるもと仲間たち。全編がバトルじゃなく、貯めのシーンもあるのだけど、でも全体的な疾走感は止まらない。さらに本当に走り回るアクションシーンでは素晴らしい作画によって強烈なドライブ感を発生させる。

「まじもじるるも 魔界編」は全4巻と、小一時間で読める長さであり、ふと手に取ると、そのドライブ感で必ず一気に4巻全てを読んでしまう。止まらない、止めようがないマンガなのだ。


さて、タイトルに不遇と謳ったが、これは特にアニメによるものだ。別にアニメの出来はさほど悪くはなかった。ただ、2014年夏に製作されたアニメでは「まじもじるるも」最終話は描かれなかった。カタルシスの解放の前に終わってしまった。

もちろん他のアニメの影響もある。前のクールに大ヒットした「ラブライブ!」の2期があったのもあるが、やはり2011年の「魔法少女まどか☆マギカ」の影響が強すぎたのだ。

「魔法少女まどか☆マギカ」によって魔法少女の位置づけが変わってしまった。それまでの「魔法少女はほんわかした街で暮らす中、いろいろな事件を解決していく」から、「魔法少女は命を落として当然の殺伐とした世界で、巨悪と戦う駒のひとつ」に基本フォーマットを変えてしまったのだ。

この後の魔法少女アニメはこのフォーマットの変化に苦しむ。プリキュアのような確固とした立ち位置を作り上げた少女向けアニメ以外は大変な状況となった。

2011年、「魔法少女まどか☆マギカ」直前にYOUTUBE作品としてシリーズ公開され、2015年春にTVアニメ化された「放課後のプレアデス」は魔法少女作品だが、国立天文台の協力により現時点で最新・最高峰の宇宙ジュブナイルとなった。宇宙を解説して進むアニメとしては宇宙戦艦ヤマトに並ぶ程の傑作だと思っているが、しかし、興行的にはヒットと言えないものであった。

※ ただし「放課後のプレアデス」のTV版は主力と言われた人々が抜けた後のGAINAXの作品だったため、評価は公開前からマイナススタートと言える状況だった。序盤に宇宙と多重世界を詰め込んでSF好き以外を離してしまった部分もなくはない。4・8・12話など単話毎の評価は非常に高いのだが。

2014年秋に公開された「結城友奈は勇者である」は「魔法少女まどか☆マギカ」のフォーマットで作られ、現在TVシリーズの3期目が公開されている。日常ギャグと殺伐とした世界の落差をうまく使った作品であるが、数多くのヒロインを生み出している小説版のほうは殺伐とした世界に特化して成功している。

「魔法少女まどか☆マギカ」の作り出したフォーマットの外でヒットした魔法少女アニメは、2016年の「ふらいんぐうぃっち」と2019年の「まちカドまぞく」くらいだろうか。「ふらいんぐうぃっち」は東北を舞台としたゆったりとしたテンポと素晴らしい魔法表現、「まちカドまぞく」は4コマ至上最高といえる密度とキレッキレのギャグのシュールさ。原作マンガの良さを上手くスープアップした、昔の魔法少女フォーマットに近くも新しさを持った作品である。

※ 原作の「まちカドまぞく」は、やる気になればいつでも「魔法少女まどか☆マギカ」のフォーマットに変化する可能性が……ギャグは捨てないだろうが。最近のまんがタイムきらら系はRP……いや、なんでもない。


アニメ2期の構想があったがどうかは分からないが、TVアニメの「まじもじるるも」は「まじもじるるも 魔界編」へのバトンを渡せなかった。もし、アニメを最終回ありきで作っていたらという思いもあるが。

動く「まじもじるるも 魔界編」を見たかった……そして少しだけ魔法少女まどか☆マギカ」のフォーマットに寄ったそれは、人気作になったのでは?

いや、「まじもじるるも 魔界編」は映像化はされてはいるのだ。「まじもじるるも 放課後の魔法中学生」9巻、シリーズ最後の単行本限定版はOAD(オリジナルアニメディスク)「まじもじるるも 完結編」を付属して販売されたのだ。

ただし、その「まじもじるるも 完結編」の評価は芳しくなかった。まずは媒体がブルーレイではなくDVDだったコト。TVアニメもブルーレイで販売されている中、選択の余地なくDVDだったのだ。さらに「完結編」の内容が「まじもじるるも」の最終回に「まじもじるるも 魔界編」の地上部分を捨てたものを合わせた短縮版だったからである。

地上の仲間との邂逅が描かれない、女体化したヘンタイシバキ=コウタもいない。そしてそれが意味するのは「まじもじるるも 魔界編」から「まじもじるるも 放課後の魔法中学生」へのバトンを折ってしまった「完結編」だというコトだったのだ。「まじもじるるも 放課後の魔法中学生」最終巻のオマケなのに。

※「まじもじるるも 放課後の魔法中学生」自体はコウタもるるもも出て来るが、基本的には3人の別のヒロインが活躍する物語である。ただし「まじもじるるも 魔界編」との関わりは深い。「完結編」だけでは……。

もちろん、短縮版でも「まじもじるるも 魔界編」の映像化は嬉しかったし、どれだけ関係者がこの作品を映像化して世に出したかったかは伝わる。アニメの出来も悪くはない。ただ、原作の「まじもじるるも 魔界編」の構成があまりにも素晴らしすぎたのである。


不遇どころか、関係者の熱意を考えれば幸せな作品なのだけど、「弱虫ペダル」の大ヒットに隠れているかのようにも思える「まじもじるるも 」。その中でも圧巻のドライブ感のある「まじもじるるも 魔界編」は特に読んで欲しい作品だ。

そして、アニメの「まじもじるるも 」と「まじもじるるも 完結編」は現在dアニメストアで配信中。「まじもじるるも 完結編」を見てからフルサイズの「まじもじるるも 魔界編」を読むのも一考かもしれない。

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