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仁義なき戦い?百姓貴族と十勝ひとりぼっち農園の十勝農業マンガ抗争!

10月12日に以前記事にした「十勝ひとりぼっち農園」の9巻が発売された。

連続テレビ小説「なつぞら」の影響で全国への認知度が上がった十勝。その前からのニコニコ動画やYOUTUBEによる「ゆっくりバイク動画」「モトブログ」などによる北海道バイクツーリング動画によって、豚丼だけでなく、スイーツの宝庫でもあることが浸透してしまった十勝。

※ すっかりヒット動画の1ジャンルとして確立したバイクツーリング動画、そしてそのSNSだが、彼らが安くて耐水性などの機能も強い、コスパ最強と愛用して配信したワークマンの隆盛を考えると、その影響はものすごいコトがわかると思う。寡黙に孤独な旅を続けていたライダーたちは、いつしか旅に憧れる人々を癒しながら機材と各地の名物を紹介する、凄腕のライターの群れになったのである。


よくよく考えれば自給率1,220%(フードバレーとかち推進協議会発表・十勝毎日新聞電子版より引用)、日本最大の食材製造工場ともいえる十勝、なにを食べても美味しいのは当然だ。

牛乳だって砂糖(ビート)だって小豆だって十勝産だからスイーツだって美味しくて当然。冬は当然寒いが、実は夏も暑い気候は野菜を美味しくするし、畑を作る広大な土地もある。水だって美味しい。旧厚生省が昭和60年に発表した「水道水のおいしい都市」32市の1つであり、その時代から今まで、おいしい水の水質基準を今でも守っているのだ(帯広市公式HP参照)。


そんな十勝の農業を描くマンガがふたつ。

前述した「十勝ひとりぼっち農園」は、実家は山口県で農家をやっているが、ずっと東京住まいでマンガ家をしていた横山裕二先生が、十勝に移住して農業を始め、作物をマンガ家や編集者に送る話(あれ?日本一のカレーを作る話では??と思った方は9巻を買いに書店へGo!!)である。

今回ご紹介する一冊は「百姓貴族」。連載中は週刊少年ジャンプから少年漫画の王道の座を奪ったとさえ思わせた傑作「鋼の錬金術師」の作者、荒川弘先生の手によるものである。

ご承知の方は多いと思いますが、荒川弘先生の実家も農家。ただし幼少時から十勝、幕別町の大農場で牛と育ち、トラクターに乗り、北海道帯広農業高等学校で農業を学び、在学中に日本学校農業クラブ全国大会のある種目で最優秀賞も取り、7年間実家で農業を手伝い、今も実家の大農場の株主をしている、まさに農業の英才教育を受けた農業のプロ(グレートマジンガーの剣鉄也くらい?)なのである。

荒川弘先生といえば自分の卒業した学校をモデルとしてアニメ化も実写映画化もされた、これまた傑作の「銀の匙 Silver Spoon」でも農業を描いているが、これは傑作すぎ……いやいや、現在も連載されていて「十勝ひとりぼっち農園」と同様の実話ベースエッセイマンガとして「百姓貴族」を。


そんな百姓貴族であるが、どんな作品かというと

「農業のアレやコレを体験した事実をギャグのオブラートで包んで提供するが、いくら包んでも農家のハードワーク等は溢れ出て、出過ぎてしまう。そんなハードワークをしていた人間はどうなっちゃうの?荒川家ヤベェ……。でもすげーメシ美味そう、野菜は当然として、なぜこんなに肉も集まってくるの?十勝の農家ズルイ!」

というマンガである。とにかく荒川家の祖父や父の頑丈さが恐ろしい。でもそれ以上に収穫期のスケジュールがブラック過ぎる。

※ 最新刊の7巻ではついに荒川弘先生がブラック扱いする会社が匿名で出て来るが、その仕事はもちろん……。


どす黒い話ばかりだが、牛をはじめとした「農作物を捕らない」動物についてはとても可愛く、とても細かく描かれている。牛についてはとても可愛いエピソードと少し悲しいエピソードで、その可愛さと賢さが何度となく描かれている。まあ、荒川弘先生の自画像も家族全員の似顔絵も牛の絵だし。

もちろん牛だけではない。なにせ、荒川弘先生関係なくテレビに取材される猫もいるのだ、大農園。対して「農作物を捕る」動物についてはとても厳しい。可愛いシマリスもにアライグマも(笑)

※ しかし北海道もアライグマの増加が酷い。北海道(環境局自然環境課)の発表によると2020年度のアライグマによる農作物の被害は12,000万円にも及ぶそう。そして鹿も増えすぎて、車で夜走るのがとてもコワイ。

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・こないだ轢きそうになった鹿


とにかく、とてもマンガが上手い人なのでするすると読める。実はとても情報量が多い、特に文字情報が多いマンガなのだけど、コマの割り方とか構図が上手いのだ。当然絵もウマイ。人も動物も、農作物も農具もデフォルメが素晴らしい。

10月22日に発売された7巻では、6巻で大決断をしたその後の荒川家が描かれているが、面白さに変わりなく良かった。そしてコロナ禍の影響は十勝にも。特に荒川弘先生の母校である帯広農業高等学校の甲子園、センバツが……銀の匙の夢が……しかし農家は防疫のプロ、今はコロナよりも恐ろしいものが。その名は?!


十勝で農業という、ある種別の別世界で奮闘する人々の話。でも、毎日のご飯とおかずを作ってくれている人々のありがたい話。もしかしたら数多のメシマンガよりも、このマンガを読むほうが毎度の食事を美味しく食べられるかもしれないのだ。

東京から十勝に来て、小さい農園でつつましくいろいろ勉強しながら美味しい野菜を目指す「十勝ひとりぼっち農園」、十勝で美味しい牛乳や野菜を大規模生産していた農業のプロが東京で描く「百姓貴族」。この機会にセットで買ってみてはいかがでしょうか?

ちなみに両先生はサンデーつながりで面識があり、「十勝ひとりぼっち農園」5巻には荒川弘先生が登場し、当然のように横山裕二先生が迷惑をかける。

最近はすっかり十勝を代表するマンガ家となり、YOUTUBEチャンネルで十勝の農業も紹介している……そんな横山裕二先生をこっそり生暖かい目でみつめる「百姓貴族」にも期待したい。

あと、そのうちゆっくりオリジナルの王道少年マンガも……。

※ 長らく週刊少年サンデーの編集長だった市原武法氏が10月13日付けで退任されたとのコト。これで「十勝ひとりぼっち農園」のヒロインの座は…ともかく、お疲れ様でした。







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