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こまけえコトはいいんだよ!肩ぐるしくない素敵なSFマンガ4作のご紹介。


・はじめに


最近はなんかこう小難しいSFが多い気がする。いや、もとからSFは企画時点から「科学的なひとつの大嘘がさも正しいように、頭が良く見える言い訳で本当の嘘を目指して紡ぐ」ものなのであるが、最近はそれだけを詰め込むものが多く感じる。

特に近々の3DCGアニメにおいて、何故か「意識高い系の残念なスタッフ」が作品の中での「原作者の嘘の恥ずかしさという反力から滲み出たギャグという潤滑剤」を「古い」として排除し、実力に見合わない高質・高尚な作品を目指して小難しいだけになり自滅するSF作品が目立つ。

客である読者・視聴者も先鋭化が進み、オタクによる知識戦争からいつのまにか「SFのルール」みたいなものが出来上がり、あの設定はこう、その装置はおかしいなどと「SF警察」的なそぶりをする者にいる。自分もそうか……

もちろん毎回突飛な初見殺しの大嘘で進むような作品はダメだけど、SFは空想の世界なのだから、もっと肩の力を抜いて楽しんでみてもいいんじゃないだろうか。小難しい設定よりも大嘘を楽しい嘘でくるんだほうがSFとしての本質を果たしているのかもしれない……

今回はそんな作品を集めてみた。


・我々は地球人だ!(高橋聖一・双葉社・webアクション連載中)


「とある街に作られたショッピングモール パンゲア。その開店前日の夜、接点を持たない三人の女子高生が、まったく別々の理由で店内に侵入する。パンゲアを運営する会社の社長令嬢の飛野 火乃子、ミーハー嫌いの音楽少女な奈々鉢 弓、明るいが不仲の両親に悩む春畑 末々美。

パンゲアの中で出会った三人。その三人だけを載せてなぜかショッピングモール パンゲアは地球から飛び立った。電気も水道も使え、食べ物も豊富…どころかどこからか補充すらされる始末。

なんでもある不自由ないパンゲアで、そのうちなんとか助かるんじゃないかと懐石料理屋の畳の上にふとんを敷き、星を眺めながら寝る三人。だが違うのだ、三人は助けられるのを待つのだけど、いつのまにかこの宇宙の何者かたちを助ける側になっていたのだ!」

ゾンビに襲われたら逃げ込むのは巨大ショッピングセンター。ロメロのゾンビのもがっこうぐらし!のみーくんもそんだからそうなのだ。この作品にゾンビは出ない……似たようなのは出るか?とにかく、巨大ショッピングセンターは金満時代のなんでもありの象徴であり、最高の救命艇なのである。

そんな中で暮らす女子高生三人はCDを探し、飯を探し、飯を食い、ブリッジごっこをして暮らす。だけど彼女たちは実は助ける側。宇宙には様々な宇宙人がいたもんだ。

残念ながら今年亡くなった松本零士先生の傑作、銀河鉄道999では数多の星の住人と出会い、事件を解決したが、メーテルと鉄郎が不条理な星をそのまま後にする回もあった。それも誌的で厳しい宇宙を描く999の素晴らしさでもあったが。

我々は地球人だ!の場合は時間に左右されず、地球人の知恵というか誰かのテキトウか素晴らしい分析かなひらめきで宇宙人たちの悩みをなんとか解決する。解決しないと次には進めないのだ。

ポップな絵柄と揺るぎないセンスで描かれる「我々は地球人だ!」とても素敵なSFだ。

既刊一巻。

高橋聖一先生の他の作品も素晴らしくすこしふしぎなSFなので読んで頂きたい。すこしふしぎなSFの中から本当のSFが溢れ出ているのだ!


・宙に参る(肋骨凹介・リード社・トーチweb連載中)


「愛しの旦那である宇一を失ったフリーランスエンジニアの鵯 ソラは、遠隔葬儀を済ませて宇一の遺骨を実家の義母に届ける旅に出る。息子のタコ宇宙人型(?)ロボである宙二郎と一緒に、自宅のあるコロニーから地球へひとっとび……

とはいかず、中に街やおでん屋もある大型渡航船で豪華フェリーのようなそうでもないようなゆっくりの旅をするのである。

宙に参る。果たしてソラと宙二郎は無事に宇宙の旅をして地球で参れるのだろうか……って、なんだか怪しい黒スーツが?」

正直、小難しい設定よりも大嘘を楽しい嘘でくるんだほうがSFとしてどころか、ある種最先端の設定ゴリゴリSFである……が、絵柄と生き生きと動くキャラクター、特に主役のソラさんのとぼけた生態でゴリゴリSFをすこしふしぎというオブラートに包むのだ。

遠隔葬儀やフェリー並みに手軽に乗れる宇宙船、リンジン回路という回路によって人へのサービスのための強力な機能を持ちつつ人間並みの心を持って人間をアシストするロボたち、そして宇宙に浮かんだ対の小惑星型将棋AI。肩ぐるしくなく普通に存在するそれらも、すこしふしぎというオブラートを厚くしている。

寄港地のコロニーで浮かれた観光客なソラさんが羽を伸ばした時から物語は微妙(どころじゃない)に変化する。ソラさんのとぼけた生態は変わらないが、そのとぼけっぷりの後ろに隠れていたのは「宙に参る」という言葉の意味。

なかなかいい感じに読者(と作内のおっさんたち)を掌で踊らせるのだ。作内どころかコードデザインスタジオの手による素晴らしい装丁の時点から踊らされているのだ。読後に「クヤシー!」と笑顔で言える素敵なマンガ。

既刊三巻。

※ 「宙に参る」の装丁についてはコミックナタリーのコラムにて特集されている。とても素晴らしい記事なので御一読下さい。

次にくるマンガ大賞2019から三年連続ノミネートしている実力は本物。ただ、なかなか出会いにくい、いいマンガ。アニメ化か実写化しないだろうか?なかなかこういうポップな日本の実写SFドラマってないのだし(Amazonプライム・ビデオの「宇宙の仕事」とか面白かったが)。


ニチアサの王様戦隊キングオージャーでついにTVの戦隊モノでもCG背景でほぼ通せる時代が来たのが証明されたのだから、その勢いで実写SFドラマも増えて欲しい。


・ルナナナ(小坂俊史・双葉社・月刊まんがタウン連載中)


「実はもう月の裏側に秘密裏にコロニーが作られていた。日本も五十年前からコロニーを運用し、今では一万人規模でそこに人々が生活しているのだ!

軽作業・高収入・寮完備を信じて応募したフリーターの菊池リコ、大学生の向井アキ、職業不詳の山崎ナオの勤務地は月だった。彼女たちが相部屋生活をする五十年ものの『月面第7寮』は昭和の産物なコンクリートのドミトリー。契約は一年で当然簡単には帰れない。

『月面第4工場』で謎の軽作業をする三人。時にはちゃんと未来な(?)市街地ドームで飲み歩して暮らすのだ。月面管理局員の印であるうさぎの仮面を被った寮長と共に。」

4コマ王子こと小坂俊史先生の新作はゆるっゆるな月面アルバイト生活。支給されたお揃いのTシャツとジャージの下だけで暮らす三人。月面で時には宇宙服を着る時もあるが、生活自体はザ・昭和。

重力制御や13月があったり月だからネタもあるけれど、三人にとってはつまらなくて高給だけど高給でない(?)面倒な軽作業とビールとまずい合成飯だけの生活が基本なのだ。綺麗な他の寮に嫉妬して。

流石は4コマ王子、昭和感あふれる未来な現在という妙な設定と月。じわじわと積もっていくシュールな笑いを誘うセンスが素晴らしい。こんな極限の女子寮な設定があったとは。

ある意味宇宙のタコ部屋というか蟹工船というか自動車絶望工場な感じもなくはない話なのだけど、なにせポンコツに自由に生きる三人と振り回される寮長はそれなりに案外楽しそう。こちらもビール飲んでつまみ食べながら気楽に読めるのだ。

既刊一感。


・サラダ・ヴァイキング(ソウイチロウ・集英社・ジャンプ+ 3/25完結)


「宇宙からやってきた超狩猟民ヴァルマン族。地球の血肉を狩猟して食べつくす調査として送られてきたレオことレオガルズとシドことシドルドは残虐な姿から人間に擬態して次の獲物である地球を調査していた。

そんなレオの前に現れた夏樹。夏樹を捕食しようとしていたレオだったが、人生で初めて食べた肉以外の食べ物、野菜サラダに心を奪われる。

夏樹と暮らし、農家である夏樹の祖父リュウゾウを手伝って未知の食物である野菜を調査しようと農作業に励むレオ。そんなレオの前にシドがやってきて……」

しっかりとSFな話とジャンプバトルが組み合わさった作品なのだが、基本は野菜も食べようマンガである。なろうの異世界ものの「なにコレ、あなたの世界の食べ物美味しい」ホルホルマンガに似ているのだが、異世界民と違って人間を捕食するために来た凶悪宇宙人相手、とても扱いが困難……なハズなのにガチ農家からすると自覚なくチョロイというギャップがなかなかに面白いのである。

宇宙人の中でもトップクラスに強いレオやシドたちの戦いは、ちゃんとジャンプ系らしい豪快で命のやりとりのスリルがあるのだが、その強烈なバトルはだいたい野菜などの旨さに負けるのだ。

いつしか最初は「最初の捕食対象」だった夏樹のコトが気になってしまい、早々とオレの家族扱いするレオ。そして真面目にちゃんともうひとつの家族であるヴァルマン族のために農作業に従事するレオ。

最初に読んだ時は壮大で超ヤバイ超狩猟民ヴァルマン族との戦いをどう着地させるのかと心配した本作であるが、ラストの二話でしっかりと実に日本の風習とキャラクターの成長を解像度高く描いた素晴らしい形で締めている。

最新刊4巻は明日、4月4日発売。


・おわりに


日本のショートSFの天才、星新一先生が長い間星雲賞を受賞せず、後に功労賞的に選ばれた星雲賞の受賞を拒否するような事態になったように、ゴリゴリでなければSFではないような時代があった。

高尚なSFを否定するワケではないが、ゆるくてもSFの本質をしっかり描いている作品にもう少し日の目が当たるべきだと思うのだ。

特にマンガは、大きな嘘のアイディアを一番伝え易いメディアなのだから。ぼやぼやしてるとその座をニチアサ特撮が超えてしまう。いや、越えてもいいんだけど……

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