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ホールインワン、至高のヒロインを完成させた絵力と「現場妻システム」


最近のマンガ界では良くランキングが発表される。特にジャンプのヒロインのランキングなどは色々と目に入る。だが、週刊少年ジャンプの、いや、日本のマンガのヒロインの完成形であるあの娘の名前が出てこない!

「ホールインワン」(原作:鏡丈二・漫画:金井たつお)の波多野恵子だ!

個人的にはヒロインの歴史は波多野恵子の前と波多野恵子の後に分けられる程の存在である……。


そこそこマンガを知っている人ならばホールインワンといえばパンチラのマンガという認識が強いと思う。強烈なギャグを伴ったマンガ論の名著である「サルでも描けるまんが教室」(相原コージ・竹熊健太郎・小学館)内のコラムでは

(以下引用)

「そしてこのシワだ!金井たつおだ!金井たつおはパンティにシワを描き込むという至極単純な方法でパンティ表現進化にあっさりとどめを刺してしまった。

(中略) 

金井たつおはその愛でパンティに生命を吹き込んだのだ。だからそれが訴求力を持った青少年を魅了してやまない究極のパンティ表現になり得たのだ。ここに至ってパンティはもはやその中身の前座としての価値ではなく、はかれているパンティそれ自身独立した価値を獲得するに至ったのである。

(中略)

それに魅了された読者は更にそれを求め、若手・次世代まんが家はその表現を自分の中に取り込んでいく。かくして、この需要と供給はねずみ算式にふくれあがり、今日のパンチラの隆盛があるという訳なのだ」

(引用終わり)

と語られている。現在の大半のマンガとアニメは金井たつお先生の表現の影響化にあるのだ。


後に同じゴルフマンガとしてヒット作になった「DAN DOH!!」シリーズ(原作:坂田信弘・マンガ:万乗大智・小学館)は途中で「万乗パンツ」という言葉を生み出す程になり、「パンチラなくてはゴルフマンガにあらず」と個人的に思ってしまう状況になった。他のマンガ家たちから膨れた「万乗パンツ」であるが、誰が意識せずともホールインワンの影響下なのは間違いない。

「パンチラなくてはゴルフマンガにあらず」……逆に言えば、ゴルフという大人の趣味を少年たちに定着させて、当時勢いに乗りつつあった少年ジャンプで戦っていくにはパンチラは必然の武器であっただろう。そして金井たつお先生の筆力はさらにそれを高みにしてスタンダードと化す力があったのだ。

金井たつお先生の絵は、絵というか線自体が良い意味でエロい。そして布とかの材質感がとても上手い。濡れた髪や衣服の表現は当時では図抜けていたと思う。そして、マンガとしてのデフォルメも上手い。顔のバランスなどは今のアニメと変わらないのだ。男の画は結構、師匠の本宮ひろ志先生のモブの絵のような(というかアシスタント時代の金井たつお先生自体が描いていたのだろうが)泥臭い絵なのに。

※ 正しいデッサンとか逆に部分強調とかでは勝てないエロさを醸し出す身体の描き方・線・デフォルメは存在するのだ。読み手側の嗜好にもよるが、金井たつお先生の絵には唯一無二の魅力がある。


そして、ここまでは作画の話ばかりであるが、原作者の鏡丈二先生の努力も忘れてはいけない。

「ヒロインの歴史は波多野恵子の前と波多野恵子の後に分けられる程の存在」と序盤に書いたが、正確には波多野恵子はサブヒロインだった。

ホールインワンには姿麗花という体操選手の正ヒロインがいるのだ。タッチ(あだち充・小学館)の始まる4年前にレオタードを着たヒロインを作り上げていたのである。

ただし、ゴルフという長尺の試合を描くにはこのヒロインには少し問題があった。試合中は見ているだけでレオタードの効力は発揮されない。さらに遠征についていく理由もつけにくい。もちろん動かない観客に謎パンチラを多発させるのもやや難しい……。

そんな中で登場したのが、同じゴルファーである波多野恵子である。舞台である明華学園グループの全国大会に主人公、戸橋矢一の同組として登場したヒロイン姿麗花とうり二つのルックスを持つ札幌から来た少女、波多野恵子は今でいう現地妻となっていく……いや、本妻を置いてきてという点では現地妻だが、同じ競技内で戦うパートナーのヒロインとしては

「現場妻」

というべきではないか。現場妻システムはこののち、それを最大の魅力としたマンガを作り上げた。競艇マンガ「モンキーターン」(河合克敏・小学館)である。

彼女持ちの主人公の競艇学校仲間として出て来たレーサー青島優子は「現場妻」としての魅力と悲劇で今だ強いフアンを持つ素晴らしいキャラだが、その源流がホールインワンであると言っても過言でもないと思う。

そして、偶然なのかも知れないが、モンキーターンの主人公が「波多野」であるコトに不思議なデジャヴュを感じたのものである。競艇だから波多の、なんだろうけどね……。


登場からすぐに、波多野恵子は読者の人気を得て姿麗花と勝るとも劣らないヒロインとなった。鏡丈二先生の素晴らしい仕事である。

波多野恵子についての魅力はそれだけではない。ゴルフの実力もしっかりしており、作内では飛ばす能力はないが寄せとパットについてはピカイチの実力。時には主人公の矢一が気づかない状況を見抜き、身を挺して伝える(口頭でのアドバイスはご法度だけに、そしてこのシーンがホールインワンのベストカットだ)コトもある。助けられるだけ女子ではなく、心強い相棒なのである。エロだけの存在ではなく自立した女性の姿もしっかり魅せるのだ!


ホールインワンの魅力はまだまだある。コースや自然現象、そして悪役すぎる悪役たちによって作り出される、あらゆる難関。それを矢一と恵子たちが技と知恵で超えていくカタルシスもまた素晴らしい。

※ 鏡丈二先生のストーリーの基本は勧善懲悪であり、「解体屋ゲン」(原作:星野茂樹)の石井さだよし先生とタッグを組んだゴルフマンガ、サクセス辰平でも同様の悪役が出てくる。両方の悪役の名字が芝から始まるあたりにこだわりが?

脇を固める理系の天才キャディ安保などをしっかり描く競技の面白さも格別だ。他の矢一の仲間たちも個性的で素晴らしい。東北明華のキャプテン石神に惚れる恵子のキャディ鈴木さんとか、素晴らしすぎる。

さらに矢一を低身長にして(最初はもう少し頭身が高かったが、すぐに小学生並みになる。後の「Dr.スランプ」(鳥山明・集英社)のようだ)、ゴルフの実力にショタコン魅力を追加し、デカプリン佐々木とメガネの岡本(個人的にメガネ属性をつけられたのは岡本である)たちを引き寄せハーレムを形成。おまけに矢一もたまに脱がせる謎サービス(笑)


少年誌だった「週刊少年ジャンプ」でゴルフマンガを続ける、そのための試行錯誤から使ったパンチラ、そしてそのパンチラに肉付けし、数々のヒロイン要素を纏った至高のヒロイン、波多野恵子こそはジャンプヒロインを語るのに、いや、日本のマンガ・アニメのヒロインを語るのに欠かせない必須の存在なのである。

勿論、ポップなキャラと真剣な試合を両立したホールインワンもまた日本のスポーツマンガを語るに欠かせない存在なのだ。


続編、おれのラウンドも。


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