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解体屋ゲン セレクション版「外国人労働者問題編1」


・はじめに


解体屋ゲンの電子コミックが連載に追いつき、毎月1日の発売が難しくなった中で、それでも毎月の読者の飢えに応えたいと(多分)始まったセレクション版もだんだん数が増えてきた。

2024年4月1日発売のセレクション版は「外国人労働者問題編1」。

その直前、2024年3月29日に「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針」の一部変更により自動車運送業・林業・鉄道・木材産業が特定技能による外国人材活用可能になった。

そんな中で先に特定技能による外国人材活用をしていた建設業。多くの外国人労働者が働いていた建設業の問題を描いた回を集めたのが今回のセレクションである。


・334、335、336話「外国人研修生制度」


外国人研修制度によってブラジルから住菱建設の関連会社のダム工事にやってきた日系三世のサントス助川は、やや偏った日本の知識だが、日本語も堪能で愛されるキャラだった。初期研修としてゲンの元にやって来たサントスはロクにより職人仕事を教わり、将来の自国での仕事に向かって張り切る。

だが、そんなサントスがダム工事の現場から怪我を負って現場から逃げて来る。住菱建設の関連会社でのサントスの待遇と事件、そして裏で暗躍していたある大物とは……そしてその大物を狙うとある組織と共にゲンの怒りが炸裂する!

サントス登場
ロクには三助と呼ばれる
サントスの身になにが
黒塗りの高級車で現れた男はいったい……
「通りすがりの解体屋ゲン」というパワーワード
さあ、儀式の始まりだ!

外国人研修生を奴隷として扱う企業と団体、そしてその後ろにいる者を炙り出す回。決してこんな研修先ばかりではなかったと思いたいが、研修生・実習生として呼ばれた人たちへの仕打ちは日本という国の格を貶めただけの行為であり、今、日本のポジションは貶めた位置が妥当になった気もしないでない。


・553、554、555話「ガイコクジンの狭間で」


ギリシャ人だが日本人と結婚して働くアケロンは仕事も有能でトシと対等な筋力もある凄い男。子供も出来て幸せに生きるアケロンだったが、アケロンの近くには外国人労働者を沼に沈めるブローカーがいた。

外国人だらけの現場で事故に合うアケロンの相棒。だが不法入国労働者の多い仲間たちは現場から逃げた。そんな中、さらにブローカーから相棒のために違法行為を求められるアケロン。話を聞いたトシはアケロンと共にブローカーに元へ向かうが……

トシと同じパワーのアケロン!
ヤバイ男と偽装学校
労働災害発生!
貧乏になる日本だけど、まだ差は大きいが
日本の素顔を知っているアケロン
それはともかく合コンだ!

不法入国の労働者とブローカーの話。悪い奴は巧妙なシステムを作り外国人と弱い日本人から金を巻き上げて、泥沼に落す。外国人労働者を好まなかったトシの変化が良いが、今回戦闘用サイボーグとして……



・667、668話「真の国際化とは」


ベトナム人の技能実習生の教育を内田に持ち込まれるロクとゲン。経済の対策にいち早く対応するために外国人の人材育成マニュアルを作った内田だが、もちろんロクとゲンがそんなものを使うワケもない。ロクの体当たり教育が始まる。

一方、マニュアルの元で外国人研修の実習プログラムを行う住菱インテリアもまた技能実習生の教育を始めたが、その学習プログラムは母国ではエリートである技能実習生たちから見ると既にクリアしてる陳腐なものだった……

確かな先見の内田だが……
ロク・ゲンチームの技能実習開始
一方住菱インテリアでは
ロクの厳しい体罰、責めが発生!
日本のサラリーマン必殺の飲みニケーションで明るい交流
ロクの教育にブチ切れた内田!

マニュアル教育とOJTの話だが、今回の場合は実習生のレベルと教育内容の問題が大きい。長旅をして色々な決心をしてやってきて、来てみたら自国と同じ教育では可哀想すぎる。マニュアル教育の担当は形式ばった飲みにケーションをしようとするけど、これもなぁ。


・700話「ダイバーシティとは」


住菱建設のダイバーシティセミナーの講師としてやって来たオーストラリア支社の美人副社長のKazue。そして、海外の現場監督候補の実地研修場所となる国立競技場で現場監督になるゲン。

ダイバーシティの必要性と価値を説くKazue。国や宗教、ジェンダー等々、各種の特殊性を持つ現場監督候補を動かすゲン。接点なく平行で進むふたつの話で語られるダイバーシティとは。

なんとか外国人労働者の未来を作りたい内田
まだ一流か、もう二流か、Kazueのセミナーは続く
キャシー登場。解決策は二択じゃない。
困ったら肉体言語!かかってこいや世界は最高のセリフかも

理屈と実践、ふたつの話が平行線で交わらずに語られる、面白い構成の回。海外での修行もしてきたゲンは今回も内田にいいように使われている気もするが、今回は最初から最後までやる気があるままだ。必要なのは出来る出来ないをはっきりさせるコト。限界点を双方が確認するコト。無理を要求する時点で関係性は破綻する。


・706、707話「偽装結婚の代償」


海外の現場監督候補のひとりでトランスセクシャルのキャシーがゲンに合わせたのは偽装結婚で中国の農村から来た美雨。偽装結婚を受け持つ坂下にピンサロに売られた美雨だが、後にピンサロのガサ入れで坂下も逮捕され、平穏に暮している。

たが、坂下が刑期を終えて帰って来るという。多分、金づるである美雨を探しに来るハズだ。打つ手がないゲンは元反社の重鎮だが引退して街の顔役となっているそば屋の原島に相談するが……

キャリーが連れて来た美女は……
あら、素晴らしい歓迎。
出来ないものは出来ないと言うゲンだが
波多野とか恵子とかいう源氏名のコがいたら通うな俺は、ホールインワン
顔役の原島登場。こう見えてゲンの最後の砦でもある。
怪しい男の追跡から美雨を守れるのか?
我々はまだ人間も必要で、人間としての関係が必要だ

解体屋ゲンで一番ビターエンドの回と言っても過言ではない回。だが希望を持たせるラストでもある。

この回では自動化重機に馴染めないゲンで、いつものゲン、今のゲンと少し違うが、労働者不足の解決を機械化だけで図るしかなくなる未来への悲哀なのかもしれない。


・おわりに


ついに始まる2024年度、そして今までかなり遅れていたブルーカラーの労働環境改善として色々と規制が入り、それに伴って働き手が一気に不足する2024年問題のスタート。必要なコトだったが、遅すぎた。コロナ禍もあり最悪のタイミングとなってしまった。

前述した「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針」により、労働者不足を改善、運送業では今後5年後に2万4500人の外国人ドライバーを確保などと言っているが……

実際に特に運転手不足は2024年問題の大きなものだけど、その前にコロナ禍での対策がまったく不足してたのはどうしたものか。バスやタクシーはコロナ禍での各事業所での出社規制や物流部門への配置転換などにより、多くの人が見限って2024年の前に逃げ、休業状態から戻ってこなかったのだ。

まだ働ける人材が他業種に流出、または引退されて2024年を迎えたのは完全に施策の落ち度。

2024年問題の前に既に日本中のバス路線廃止や間引き、深夜タクシーの不足というインフラの崩壊が始まってしまった。トラック業界は近々のデータで実に57%が赤字だという状況だし、この状態で外国人ドライバーの教育をどこまで出来るのか。

ブルーカラーの待遇改善が遅すぎたのだ。他の全ての業界もそう。年単位の仕事をギリギリのスケジュールで下請を叩いて無理やりこなしてきた建設業がその下請けまでしっかり労働環境改善を行える?

「金になるなら仕事を取る」って考えの経営者を2024年までに変えられてないとダメだったし、「安くて休みも働く業者サイコー」な元受けもそうだ。変わった?

そこをなんとかするには外国人労働者を増やすしかない、それはそのとおり。だけど、今の日本に彼らに来てもらえる魅力と技術力と経済力があるのか。

「真の国際化とは」の話での「日本の学習プログラムが彼らが既に通過したものだった」という話が一番恐ろしいのだ。日本が教えられるコトがあとどれだけあるのか?

もう賃金では他の「先進国」からは完全に置いて行かれている。相手の国の貧しさよりも、ライバルの先進国より賃金と労働環境でリードして労働者を確保出来るのか?かなり困難な状況である。

日本が他国よりもリードしていたやさしさ・おもてなしもアケロンの言葉のとおり正体がバレているし、今までの制度でマイナスに下がった所からの2024年。

作内の内田のように問題の解決への行動を長期に続けて成長している人々と企業に期待したい(この巻は大手ゼネコン社員の内田の成長を描いたものでもあるのだ)。

そして「かかってこいや!世界!!」は少し口が悪い言葉かもしれないが、相手・観客と呼吸を合わせるプロレスのような環境と逞しさが必要かもしれない。

※ そういえばプロレスって昔から外国人労働者がずっと働いている場所である。もちろんトラブルも色々あるだろうけど、多くのプロレスラーがリピートして日本の団体で活躍してくれているのは間違いない。ギャラとやりがいと周りの環境。なにか参考になるものはないだろうか。相撲界の日本語教育の優秀さとかも。

日本の外国人労働者問題はリスタート出来るのか。解体屋ゲンではまだまだ外国人労働者問題の話のストックがあるハズなので、「外国人労働者問題編2」にも期待している。


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