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プロレスは人生。自由へのエクソダス「ウルティモ・スーパースター」

プロレスが好きだ。と、いっても最近は興行に行くのもご無沙汰であり、プロレス中継も見ていない、プロレス雑誌もたまにしか買ってない。残念な自称プロレスフアンだ。

いや、過去はちゃんと好きだった。雑誌も買い込み、国内プロレスだけだったけど動きはしっかり追いかけていた。そして札幌の会場にも仲間と足を運んだ。

中島体育センター別館・スガイホール・テイセンホール・グリーンドーム・スピカ……全部なくなったな、なつかしの札幌のハコ。一番最後に行ったのはDDT最後のテイセンホールだっけ?いや、東京ドームホテル札幌(これも運営が変わって名前も消えてしまった)の全日か。

新日・全日・ノア・大日本・DDT・アルシオン・NEO・ハッスル・IGF・北斗……色々と観たけど、一番心に残っているのは中島体育センター別館のみちのくプロレスかな。


いつもは関節技が見たいので2階席ばかりだったけど、めずらしくリングサイドに座ってみた大会。みちのくならではのスピードあふれる空中戦とコミカルさ、そして真剣な試合。

当時人気のあった海援隊☆DXが~っていう、裏では色々とあった時期のハズだけど、その日は素晴らしい幕切れで、皆が感動してなかなか席を立たなかった大会だった。愚乱・浪花も元気だった……。

みちのくプロレスといえばルチャの団体。ルチャ、ルチャリブレとはメキシコ式の、覆面レスラー=マスクマンが多く、善玉・悪玉が決まっており、多彩な空中技やまるめこみ技を流れるように使い、見て楽しいくやって楽しい?そんなプロレスだ。

そんなルチャに魂を奪われたレスラーたちの生き様をひとりの少年の目から綴ったのが須田信太郎先生の手による

「ウルティモ・スーパースター」


あらすじ。


「つまらない学生生活を送っていた高校生の三波ヨシアキ。ある日、学校の前にオンボロバスが止まり、三波の学校に「出てこい」と呼びかけ、謎の男たちが数学教師に覆面を被せて拉致する。26人しか客のいないパチンコ屋のプロレス会場で三波が見たものは、ひさしぶりに自由の場を得た数学教師のもうひとつの姿……。

そして、三波はオンポロバスに乗った。警察官・土木関係者・銀行員・染物職人など、バスとリング以外ではまともな?社会人のレスラーたちと、星のマークの覆面をかぶった謎のオッサン、ウルティモ・スーパースターによって鍛えられる日々が始まる。リングも満足に維持できない団体、るちゃプロレスの本番のコーナーポストに登るため、誰かに夢を見せる、自由の戦いのために……。」


「プロレスは鍛えられた大男たちのメルヘン」と個人的には思っている。衝撃的と言われた本などで、プロレスは……なんて言う人は多いが、今もプロレスが好きな人間はそんなコトは百も承知だ。

でも、そんなのは関係ない。会場で実際のリングを見ればわかる。よほど鍛えないと、あの体形で30分とか60分とかの時間をあんなに動き回れないコトを。自分の技も相手の技も熟知しないと簡単にカッコ悪く、時には事故になったりもして、上質な試合を維持できない繊細さを。そんな中でシリーズ全体の展開も考慮しながら、客を盛り上げていくのだ。

作品の中では「ルチャは"愛"と"信用"でなりたっている"命がけのショー"なんだよ……。」と語られる。そして、るちゃプロレスは主導権を握って、観客をひきつける試合を作ったほうが勝ちの権利を得るスタイルだ。


自由の為にたまに、いやいつも難題を押し付けられ鍛えられる三波。それを鍛えるもうひとりの主役、ウルティモ・スーパースター。究極のスーパースターは究極の自由人だ。他の皆と違って他に仕事の様子はなく、蝶を追ったりして見習いの三波と遊んでいるだけ。

ただし、その振る舞いは常時プロレスラーだ。プロレスラーとして悪人を捕まえ、プロレスラーとして大食いして、プロレスラーとして人の命も救う。普段から24時間、全集中の呼……プロレスに全集中の真のレスラーなのだ。

どうやら過去はメジャーの……なウルティモ・スーパースターだが、いつだって彼の心は観客と仲間の夢と自由のためにあるのだ。そして夢と自由のためにはプロレスを、ルチャを愛してないとダメなので、その手伝いもする。

るちゃるちゃといいつつも、鍛えられた足腰での高高度な空中戦だけじゃなく、ガチガチのレスリングスタイルも、ゴリゴリの関節技も巧く、好敵手、弱った仲間、狂気に走った仲間などをマット等に沈めていくウルティモ・スーパースター。もちろんルチャを愛して、楽しく熱く、善玉の務めをはたしながら。

……そして後に、彼は日本のプロレスの全てを背負ってリングに立つコトになるのである。


須田信太郎先生の絵はキャラクターの記号化が上手い。そして、その記号はキャラクターの表情を覆面越しでもしっかりと伝える。マスクマンなのにウルティモ・スーパースターはとにかく表情豊かなのだ。他の連中も全部そう。素顔の三波はさらに表情豊か……いや、それでもやはりウルティモ・スーパースターが一番か。魂がマスクの穴からあふれ出ているのだ。


何のためにプロレスを観に行くのか。好きなレスラーのため、素晴らしい技と攻防を見るため、コミカルな演出を楽しむため。全部まとめて、生活のしがらみから脱走して、自由になって、リングに夢を求めるためだ!

コロナ騒ぎが収まったら、またプロレス会場に行こう。口元だけのマスクマン生活は幸せか?そうじゃないだろう。もう少しだけ我慢して、フラストレーション貯め込んで

「自由へ……エクソダス!」


それまでは「ウルティモ・スーパースター」がある。何回でも読む、読めるんだ、楽しいから!










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