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【400字】陰謀エステ
「陰謀エステがよかったわ」
帝国ホテルで、いつものメンバーでアフタヌーンティーをしていたら、一人のマダムが教えてくれた。
「陰謀って…なんだか怖そう」
「名前、インパクトおありでしょ?でも、お肌が望んだ運気をあげる状態になるのよ」
「金運が上がるとか?」
「おっしゃるとおり!投資運、学校入学運、なんでもうまく行きます。そういう特殊なエステをしてる人を知ってるの」
思い切って、行ってみることにした。
このところ主人の病院経営に、陰りが見えていたのだ。
陰謀エステは、かなりセキュリティがしっかりした億ションの一室にあった。
カルテの「上げたい運気」欄に、「金運」と書き入れた。
エステティシャンは「ここでの施術方法は、一切口外しないこと」「本サービスで使用するものは、一切持ち帰りしないこと」という文言を指差した。
「守秘義務にご了解いただけたら、サインしてください」
施術はごく普通のマッサージだった。
「これのどこが運気アップなのだろう」と思ったところで、顔にお粉をはたかれた。
「最後にお粉って、ちょっと変だな」
と思っていたら。
「こちらに移ってください」
と、隣のバスタブのある部屋に移された。
アイマスクをつけて横になる。
バサバサと音が聞こえる。
顔に、体に、何かが降ってくる。
紙?
埋まっていく体に、紙の感触。
ピンとした紙、高級そうな紙、大量の紙って、暖かいんだなあ…。
「この暖かさを、よく覚えておいてください」
この紙、どこかで嗅いだことのある匂い。
本屋さん?
いえ、違うわ。えーと、何だったかしら?
「最後に一枚、画像とりますね」
アイマスクを外され、ゆっくりと目を開けると…
「これは…!」
私の体は、大量の一万円札に埋め尽くされていた。
「これで、一億です」
「一億!」
「好きなだけお戯れください。バスタブをご使用いただいても結構です。後で数量チェックがありますし、お持ち帰りは、当然、犯罪です」
にこやかに、ジョークとも本気とも取れる言葉を残し、エステティシャンは退室した。
このお金、どこからきたんだろう?
もしかして、本当に何かの陰謀??
最初は怖気づいていたけど、折角なので、一億で遊んでみる気になった。
バッサバサ下から巻き上げてみたり、文字通りかき集めて山を作ってみたり。
「札束風呂、しよう」
バスタブに全部入れてみる。
「あれ…」
バスタブはいっぱいになるかと思いきや、半分くらいまでしか溜まらなかった。
「一億って…少ない…」
いや、少なくないんだけど、もうこの頃には、一億は「ただの紙切れ」と化していた。
私が抱いていた一億って、なんなんだろう?
もっと巨大で、壮大なものだったはずなのに。
「お楽しみいただけましたか?」
「ええ、とっても!」
紙幣の数量チェックとお会計を済ませた。
「家に帰ったら、主人に、もっと稼げるわよって言えますわ。でも…このお金って、どうやって…」
「陰謀エステですから」
私の疑問を遮るように、ピシッとエステティシャンは言い放ち、静かに笑った。そこはかとなくダークな印象のほほ笑みだった。
(1234字)
※もはや全然、400字ではありません…草
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