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読書感想:死亡遊戯で飯を食う。 (MF文庫J) 著 鵜飼 有志

【死ぬ事はけして怖くない、遊ぶように殺し合おう】


【あらすじ】
目を覚ますと、私は見知らぬ洋館にいた。
メイド服を着せられて、豪華なベッドに寝かされていた。
寝室を出て、廊下を歩いた。
食堂の扉を開けると、そこには五人の人間がいた。
みな一様に、私と同じくメイド服を着せられていて、少女だった。
〈ゲーム〉の始まりだった。
吹き矢、丸鋸、密室に手錠、そして凶器の数々。人間をあの世にいざなうもので満ち満ちている、そこは〈ゴーストハウス〉。
館に仕掛けられたトラップのすべてをくぐり抜けて脱出するしか、私たちの生き残る道はなかった。絶望的な現実に、少女たちは顔色を悪くする――
――ただ一人、私だけを除いて。
なぜかって? そりゃあ――私はこれが初めてじゃないから。
プレイヤーネーム、幽鬼《ユウキ》。十七歳。
自分で言うのもなんだけど、殺人ゲームのプロフェッショナル。メイド服を着て死の館から脱出を図ったり、バニーガール姿でほかのプレイヤーと殺し合ったり、そんなことをして得た賞金で生活している人間。
どうかしてるとお思いですか?
私もそう思います。
だけど、そういう人間がこの世にはいるんですよ。
おととい励まし合った仲間が、今日は敵になる。
油断すれば後ろから刺され、万全を尽くしたとしても命を落とすことがある――
そんな、死亡遊戯で飯を食う、少女が。

Amazon引用

賞金を賭けたデスゲームの物語。


人の命は一生に一度である。
だからこそ育まれる死生観があるのだが、この物語はそれを忘却した様にイカれている。
眼を覚ますと幽霊屋敷に閉じ込められた幽鬼。
食堂に集うは面識が無いメイド服を着た5人の少女。物騒な凶器が用意され、戦々恐々しつつ、脱出を賭けたデスゲームが始まる。
そこで繰り広げられる倫理も道徳も欠如した凄惨な殺し合い。
生き残る為に皆が臆病になる中で、幽鬼には優位があった。
その優位を使って。
何十回もの死との隣併せのスリルを嗜虐的な快楽 に変えて。

防腐処理という特殊設定により死なない限りは欠損が許される中で、何故に幽鬼はこんな無謀なゲームに参加するのか、その動機が師匠との邂逅で描かれていく。

あくまでも、ゲームのシステムに則って、コツコツと定石を積み上げる中で、その安心感を裏切るような予想外の展開が続々と発生する。

人を殺してまで自分が生き残っていく為には、頭のネジが緩んでないと、到底成し得る事は出来ない。
倫理観も罪悪感も全く持たずに、淡々と繰り広げられる阿鼻叫喚の地獄絵図。

醜悪な資産家によって開催されたデスゲーム。
人を死を娯楽の肴として集められた、お金欲しさに互いを蹴落とす美少女達。
しかし、そんな世界でも、日陰者の自分でも輝けると価値を見出そうとする幽鬼。
ゲームを通して、思いがけぬ目標が出来たり、協力や裏切りが当たり前に起こる中で、徐々に変質していく心情。
ゲームを展開していく中で、ヒートアップしたアドレナリンに脳髄が焼き切れようとも。
心の中では、自分と状況を冷静に分析して、どの様な行動が相応しいか、常に思考する狡猾があった。

ゴーストハウスでは痛覚遮断されている故に、プレイヤーに対しての殺傷忌避感を低減する作用がある。
平和的選択肢など存在しない。
遊ぶように人を殺していく。
自分の利益だけを考えるからこそ、躊躇も容赦も徹底的に排除する。

デスゲームといっても最後の一人が生き残るまで戦い続けるバトルロワイヤル物ではなく、平均生還率70%を記録する。
しかし、あくまで平均なのであって、いつ何処で誰がどのように死ぬか分からない緊迫感は常につきまとう。
しかし、その対価として生き残った際に得られる莫大な賞金。
その金で生き永らえる事が、唯一の希望。
そんな風にゲームに参加する目的は人それぞれで多種多様。
どこまでも醜悪な世界だとしても、狂う事でしか生き延びる術を知らない参加者達。

凄惨なデスゲームをエンターテイメントとして楽しんでいく心意気。
極限状態で見定めた99連勝というとてつもない目標。
その達成を妨げるように、館に仕掛けられたギミックは、直球の罠から意地の悪い物まで、ことごとく予想を裏切ってくる。
文字通り己の命を懸けて行うゲーム。

このようなデスゲームに、通算二十八回生き残ってきた猛者である幽鬼の動機。
命の価値が彼女の中では、どこまでも薄っぺらく、他人とのコミュニケーションの断絶も厭わない。
人を裏切る事に対して、良心の呵責は一ミリもない。 

何故、彼女はそんな風に、何も考えず手段としてそんな事が出来るのか。
その答えは過去、九回目のゲームの中。
「キャンドルウッズ」と名付けられた、三百人の「兎」と三十人の「切り株」からなる生死を賭けた鬼ごっこの最中。

うさぎに紛れ込んだ殺人鬼が牙を剥き、うさぎも切り株も纏めて、快楽のために殺人の渦を巻き起こした最中で。
九十六回も生き抜きながら、殺人鬼に殺された師匠の遺志を継ぐと言う覚悟を放ち。
それが彼女に目的を与える。
しかし、恐らくそれは、ただの辻褄合わせに過ぎないのかもしれない。
だが、どれだけ薄汚れて、軽薄であろうと、まごう事無き自分の意志で選んだ生き方だから。

クリアするための条件は、命の価値を安く思える事。
死ぬ事も殺す事も恐れない事。
人間性を壊すように遊ぶ事に忌避感を抱かない事。 

そんな冷酷無情さを美徳とする生き方に囚われながら。

醜悪なゲームを壊れた様に突き進むのだ。


















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