読書記録:Mother D.O.G (電撃文庫) 著 蘇之 一行
【産み出したなら狩るしかない、親としての悲哀の責務】
母と子が怪物を狩り廻る物語。
子供が犯した罪を、母親が償う。
どんなに恐ろしい罪科も、我が子が犯した罪なら、一番に寄り添い受け止め精算出来る。
猟奇殺人事件が巷を賑わす中で、忌むべき化け物達を一心不乱に狩り続ける二人組。
夜子の遺伝子から産み出された化け物達にも、それでも親愛の情を注いでしまう矛盾。
彼女の悲哀を傍でいつも支え続けるサトル。
背負うべき責務と家族としての業を抱えつつ。
化け物達を愛するからこそ、殺す彼らの宿命。
愛する者を、愛を信じて殺せるか?
手塩に育てた子供にはもちろん愛着があって。
その愛着を躊躇わずに捨て去って、自らの子供に手をかける事が出来るのか?
かつて、何万もの子供達を被検体として、推し進められた狂気のプロジェクト。
それは世界最高の生体兵器を創り出すという物。
計画は唯一の成功例を生み出し、その成功例の細胞を用いて創り出された兵器。
それを通称、「D・O・G」【division of gift】と呼んだ。
反団体によりほぼ全ての研究と製造手段は破壊されるも、一部は流出して。
世界の至る所で、謎の大量殺人を巻き起こしていた。
そんな世界で、生体兵器の足取りを追って、まるで死神のようにその命を奪う二人がいた。
その一人は夜子。
全ての生体兵器の生みの親となった唯一の成功例。
もう一人の名をサトル。夜子の傍にいつも侍る、彼女が生み出した最後の「子供」だ。
彼等は日々、追いかけていく。
世界各地に散らばる、怪物達の足跡を。
その中で、まざまざと見せつけられる。
怪物達に絡まる、現世で生まれた様々な想いを。
大都市を揺るがす「人狼」の噂。
そこに隠されていたのは、許されぬ悪への怒りに満ちた、身勝手な正義の感情。
熱帯に位置する島国。
そこで生まれた怪物の最後の生き残りとしてジャングルに隠れた姿の見えぬ怪物。
そこに絡まるのは、親としての愛、そして人としての復讐心。
そして、全ての始まり。
サトルが生まれるきっかけとなった事件。
そこにあるのは、家族としての愛情。
どれだけ歪んでいたとしても、産まれが違ったとしても。
家族を死なせたくないと言う、「人間」としての、ごく当たり前の感情。
彼女達が対峙した人狼、悪魔、巨人といった怪物達、そして夜子とサトルが背負っている、何ともし難い業の深い背景があって、それが彼らを苦しめさせる。
因縁と宿命、人間の業の深さとの戦い。
D.O.Gが産まれる原因となった自らの咎を背負い、非情で冷酷に敵を狩りながらも。
どこか少女めいた脆さを感じさせる夜子。
普通なら人間に恨みを持って支配してやろうと画策してもおかしくないが。
そんな彼女を踏みとどめて、支える為にどこまでも献身的に付き従うサトル。
自らが生み出してしまったのなら、その責務を夜子は務めあげるだろう。
そして、その役目が完遂されるまでは、永遠にサトルも付き合い続けるだろう。
凶悪な化け物達も、元を辿れば自分の遺伝子から産まれた可愛い我が子。
それを自らの手で駆逐しなければならない苦悩。
そんな死屍累々を積み重ねて、夜子はふと考えてしまう。
家族の繋がりとは一体何なのかであろうかと。
正義感や倫理観という物は誰しも少なからず持っている。
そんな価値観の不一致だけで、いとも容易く人は繋がりを殺してしまうのか?
母と子という立場であっても、所詮、血が繋がっているだけの赤の他人。
子が間違いを犯したなら、母が正さなければならない。
ただ、その争いに於いても、相手が悪いと一方的に非難するのではなく、戦いの末に、別離となる宿命を哀しめる人間らしさは失ってはいけない。
怪物達との終わる事のない、不毛ないたちごっこ。
怪物である彼らには、人間が牛耳る世界に居場所なんて元々なくて。
そんな悲壮感と絶望に打ちのめされても、人としての矜持を貫く。
いつか、この憎しみと悲哀の連鎖を終わらせる為に。
心から愛する忌むべき怪物達を狩り尽くす為の旅の行く末に待つ物とは?
哀しみの中に僅かに残る優しさと温かさを拠り所にして、先の見えない戦いを突き進んでいくのだ。
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