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読書感想:高嶺さん、君のこと好きらしいよ (2) (ガガガ文庫) 著 猿渡 かざみ

【君の事をもっと知りたいから、恋の駆け引きに身を投じる】


【あらすじ】
恋の駆け引き・オン・ザ・ビーチ☆

様々な障害を乗り越え、めでたく付き合うことになった高嶺さんと間島君……。
しかし初めての男女交際にカタブツ風紀委員長は絶賛迷走中!
そんなところへ間島君の過去を知る後輩ちゃんまで現れて、二人の恋模様はさらに混沌の渦へ!?
隙あらば間島君へのアタックを仕掛ける後輩ちゃん!
カレシらしく振舞うために試行錯誤を繰り返す間島君!
それはそれで楽しんでいる高嶺さん!
振り回される愉快な仲間たち!
さまざまな思いが! 惑いが! 駆け引きが! 夏のビーチで交差する!
両片想い恋愛ハウツー・ラブコメ第二弾! 再演!

Amazon引用

二人の関係に後輩が乱入する物語。


「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む」とは孫子の言葉である。
恋の駆け引きで勝利する為には、実際の戦いの前に勝てる状況と態勢を予め作っておく必要がある。様々な障害を乗り越えて、ようやく付き合えたサキに相応しい男になりたいと試行錯誤するケンゴ。
そこへ彼の過去を知る後輩のクルミが乱入する事で、恋模様は混沌と化す。
その必死さは相手の事をもっと知りたいからこそ。

間島に心酔していた後輩女子のクルミが登場し二人の関係をかき乱すかのように振る舞うも、そんな思い込みの激しいクルミをサキが一喝する姿は実に頼もしく、恋愛は人を変えるのだと感じられた。

現代社会において何かを貫くっていうのは相応に苦労が付きまとう物で、だからこそ何かを貫いてる人は尊敬に値するし、頼もしくもある。

付き合い始めても万事首尾よく上手くいくという訳ではない。
付き合いだしてもカタブツなのは変わらないがケンゴそう簡単に上手く行くわけもない。

風紀の鬼であった今までの彼。
しかし、そこに恋という油を差した場合どうなってしまうのか。
答えは単純、動作不良を招いてしまう。
今までの自分が出来なくなっていく、恋人同士というものをどうすればいいのかと堅く考えてしまい、綿密に練り上げたデートプランが外的要因で崩壊したり、その時の顛末で風邪を引いたりと彼は迷走を始めていく。

だがそれでも、恋人という存在にはきちんと向き合いたい。
リクやタツキ、ユウカに意見を仰いで自分のやるべき事を考えたり。
アイスを賭けた球技大会のドッジボールで、サキの応援が力になったり。
今までとは違い、明確に周りの手を借りたりしながらも少しずつ、彼は自分が恋人としてどうあるべきかを模索していく。
それは、堅物だった昔の彼からは、想像もつかない躍進である。

しかし、その変化に水を差そうとする影が一つ。
かつてのケンゴの後輩であり、今も彼の事を崇拝と言っていいレベルで敬愛しているクルミ。
彼女にとって、サキの存在は許せるものではなく。ケンゴに許可を取り付けて、彼が仲間やサキと共に行く海へと同道して。
ケンゴにアプローチをかけつつ、サキの事を見極めようとしていく。
昔の彼を心酔するからこそ、ケンゴに相応しい人間なのかサキを試すように品定めする。

あなたは彼の傍には相応しくないと一方的な崇拝からくる言葉を投げつけてくるクルミと一対一で向かい合い、サキは毅然と彼女へ告げる。
あなたは本当の彼の事を見ていない、そんな貴方に彼の事は渡せないと。 

崇拝、妄信というのはそういう事である。
見ているようで見ていない、肝心な所を見ていない、自分で作り上げた虚像に騙されて。
だけど、サキだけは違う。
ちゃんと今のケンゴの事を見ている。

だからこそ、彼に正面から物を言う事が出来る。
当たり前の事が分からぬ堅物で浮き世離れした彼に当たり前を教える事が出来る。
そしてそんな凸凹な彼らだからこそ、少しずつでも前に進める。

普通の彼氏らしく振舞うために試行錯誤という名の迷走を繰り返すケンゴの不器用な歩みも自分の事を深く思いやってくれているからこその物で。
だからこそ、こんなにも愛おしい気持ちが溢れてくる。
もっと、互いの事を深く理解したい。
だからこそ、傷付く事を厭わずに相手の心に手を差し出す。
クルミという第三者が絡んできたからこそ、改めて実感する二人が今まで育んできた絆。
その絆の強さ故に想いが空回ってしまったとしても。

そんな風に空回りしてしまう姿こそ、恋愛の醍醐味でなかろうか?



 

 

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