映画感想文【PERFECT DAYS】
2023年 製作
監督:ビム・ベンダース
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗
なんとも、なんとも……。
誤解を恐れず断じてしまうと、至極地味で、退屈な映画である。主人公・平山の日々は毎日同じことの繰り返し、実に平坦。物騒な取引を持ちかけられることもなければ、凄腕アサシンだった過去もない。多少の波風はあれどすべてそれは日常の範疇のことであり、世界が一変するような出来事は何も起きない。
だがそれは、我々のほとんどが同じことだろう。
ある日のちょっとした不幸を嘆き、また別の日に出会ったラッキーに微笑み、寝て起きればその殆どを忘れて今日を生きる。
役所広司演じる平山がその日々をなんと感じて生きているのかは分からない。
本棚からあふれかえるほどの本を読み、妹の高級車は運転手付き。彼女が平山に投げる言葉からは、どうも現状に相応でない高尚な過去をもっていそうな気配も感じられる。
毎朝家を出て空を見上げた時こぼれる微笑みには幸せがにじんでいるように見えるし、しかし妹との別れの際に涙を流す姿には、遠い過去にいまだ囚われているような不自由さも感じる。
周囲の人々も様々なのだが、なんとなく、皆にそこはかとない不自由さを感じるのである。
「金がなきゃ恋もできない」と嘆く若い同僚タカシ、母親(平山の妹)と不仲に家出してみる姪ニコ、公園で一人踊るホームレス、ガンの転移が分かって別れた女房に会いに来る男とそれを受け入れる飲み屋ママ。
平山だけが特別なのではなく、誰も彼も皆PERFECTな日々をもとめて、人によっては全然PERFECTじゃない毎日を生きていく。まるで歌のようだ。
毎日は美しいのかそうでないのか、いっそ記録映画とでも言えそうなほど淡々と進むこの映画をつまらないというか否か、それは全く自分次第。
『今度は今度、今は今』
「今」を生きる平山の「今度」は、いつ訪れるのだろうか。
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