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映画感想文【イニシェリン島の精霊】

なにやら話題になっているらしいので観に行った。
実はコリン・ファレルとコリン・ファースを混同していたことは秘密である。

<あらすじ>
1923年、アイルランドの孤島イニシェリン島。島民全員が顔見知りという小さな島は、本土の内戦を横目に退屈なほど平和であった。
島に住むパードリックはいつも二時になったら友人、コルムと共にパブに行くのが長年の習慣であったが、ある日突然絶縁宣告を言い渡される。
理由も分からず、事情を聞いても納得できない。妹や周囲の力を借りてなんとか関係の修復を図るが、頑なに拒否され、ついには「これ以上自分に関わるなら、自分の指を切り落とす」と脅されて…


いい年したオッサン同士が絶交って、

「十二歳かよ…」

とは、島の青年ドミニクの言葉だが、まさにそのとおりだ。何を言っているのか、と呆れられても仕方がない。しかしそれなりの経験をしてきたおっさん同士が本気で繰り広げる『絶交劇』は相当なものである。

「俺に近づいたら、俺自身の指を切り落とす」というのは理不尽だが拒絶方法としては上手いなと思う。
近づいてきた方に殴りかかるのでは、怒りはあっても恐れは抱かない。懲りずにまた繰り返されるだろう。しかし自身を傷つけるとなれば、相手は自分のせいで、と罪悪感を持ち近づくのを避けるだろう。

それでも「まさか」と思っていたが、本当にやりよったで…。

マジで自分の指を切り落とし、主人公の家の扉に投げつける。描写もかなりリアルでグロい。病気だとか鬱だとか、正気を疑われて当然の所業である。
しかも彼、コルムはバイオリンを弾く音楽家であり、そもそも主人公を拒絶した理由が「200年後でも語り継がれる音楽を生みだすため」であるらしいのに、なんで?バイオリン弾けなくなるのに?と観客は更に戸惑う。

絶縁の理由は、曰く「お前は退屈すぎる。酔って2時間も馬の糞の話をする。そんなことに俺の時間を使ってる場合じゃないと気づいた」とのことが、果たして本当にそうなのだろうか。色々含みがありそうだが、結局最後までそれ以上のことは語られない。
小さな島の限られたコミュニティで、どうしてわざわざトラブルのもとを作るのか。そこまで強烈に拒絶しなくてももっと上手いやりようがあったのではないか、と思う。

アイリッシュ音楽が物珍しく、アイルランドの島の自然が美しいが、ほの暗さがずっと不穏な空気を漂わせている。
昼間でも暗い室内、遠くから聞こえる戦争の音、死を予告する不気味な老婆。この老婆は題名にある精霊、つまり人の死を予告するというアイルランドの精霊・バンシーを示す。

コルムは、人生は死ぬまでの暇つぶしではないか、と言う。
島の閉塞感を考えるとそう思ってしまうのも無理はないかも知れない。
それに耐えかねてパードリックの妹、聡明な女性であるシボーンは逃げるように島を飛び出し、本土の新鮮な空気を満喫するようになる。兄にも同じように島を出るよう勧めるが、彼は頑なに拒む。
自ら望んで島に閉じこもる様子は、なんだか観ていて痛々しさを感じた。
逃げてしまえばいいのに、逃げるということすら、彼らは思いつかないのだろうか。

難しく、色々と消化不良な映画であった…。うーん。

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