俺は死んでやる

ノロイですよ。

知らん霊媒師とやらがそう言った。
なんでも、息子が旅行先で転がした石が、なんだか曰く付きのシロモノで触ってはいけないものだったらしい。

言われてみれば、そこは妙に静かで虫一匹いなかった。
石が、草も生えていない地面のまんなかにぽつんとあった。息子はサッカーをやっているので缶蹴りの要領で蹴った。きみわりぃ、など、言っていた。
おれは、無関心だった。しかし、妻は、ジュースを買って戻ってきたとたんに顔面蒼白になって、「やだ、なにここ。早く出よう」と、息子の手を引いてそこを立ち去った。

おれは、何も無くなった、丸い空洞の空間を見た。
……それだけだったはずだ。

しかし、不幸はそれから始まった。

妻は、ある日、霊媒師を連れてきた。知り合いの知り合いと言う。
両足を失って車椅子になった息子に、それに、おれを見て、ノロイとそんな単語をくちにした。

「石を喰わされて死んだ女が見える。イジメでしょう。山奥だから放置されて、腐った果てに石だけ残った。それをあなたと息子さんが、起こしてしまった」

「止める手立てはないんですか」

「やってはみますが……」

妻と、霊媒師とやらが、青い顔を突き合わせている。

おれは。

おれは、激怒していた。

なんだ。

なんだ、それは。
知らんわ。

知らんやつ。不幸な死に方は同情するが、なんだ、その八つ当たりは。なんなんだ、その呪ってきてる女とやらは。

おれの激怒をよそに、霊媒師が怪死した。妻はトラックで轢き殺された。息子は坂道で車椅子が止まらなくなって激突死した。
そうなって、はじめて、おれの目にも、まっくろな目をした女が見えるようになった。ぼろぼろのセーラー服を着てぐしゃぐしゃ髪の色白の女。

そうか、幽霊か。
幽霊のノロイ。

…………ふざけるな。
激怒をしている。

待ってろ。
同じく人間なんだが?

オマエを、殴りに行く。殴りたおしてこの恨みと哀しみと慟哭ぜんぶ思い知れ。ふざけるなよ、なにが幽霊だ。おれだって人間だぞ。おれだって死ねば幽霊なんだが?

待ってろ。
殴りたおしてやる。

殴って殴って殴って、このうらみ、この血の涙が出そうな憤激、ぶつけてやらぁ。
待ってろ、幽霊女。

おれは、死ぬことにした。
呪われそうな死に方はなんだ。呪ってやる。あの幽霊を呪って呪って死ぬ。

待ってろ、殴りにいくぞ。
待ってろ!!


END.
(前の話の男性

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海老かに
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