24時間の返礼品

ヒトのかたちに魚の下半身、これぞ人魚よ、男は確信する。網をひきあげてすぐさま顔を振り向かせたが、絶命している女の顔にすぎず、美しさなどはカケラもなかった。

口を間延びさせて。
おおっきく開けて。
目を伸ばして白目を剥き出し。

醜い、時間経過した死体であった。
しかし下半身には価値があるはずだ。ビニールシートにくるんで、深夜をまって船から運び出した。朝の8時にこれを捕えた網を見つけて、田舎の夜8時はとっぷりと暗くなって、ちょうど24時間が経過している。

男はいざっと玄関にシートを転がした。24時間でビニールシートは乾き、魚が腐りかけた異臭を放っている。奇妙に乾燥するほどのピリピリした感覚も受けた。

ビニールシートを開けて、

男は絶叫した。恐怖に。絶望に。絶望に、気を狂わされて乾ききった人魚ミイラに抱きついた。カラッカラになったそれは、男が抱きしめるうちにも溶ける雪が如くちぢみはじめている。
ああ、明日にはどんなに、ちっこくなってしまうんだ!?

男は絶望して、絶望して、絶望して。
それから、翌日になってからぐらいにふと思い出した。そうか。だから、この世にゃ、人魚は人魚のミイラとしか存在してねーわけだな。

乾物、アジの開きみたいになったミイラが、男の両手に匿われていた。


END.

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