つぶつぶ人魚姫だ(たんぺん怪談)

人魚姫はとかく美しい。美貌。優雅、ひと目で幻惑と困惑と探究心を相手に訴える。

人魚姫の瞳は特に美しい。きらきらして、宇宙の星星を紺碧の球体に閉じ込めてある。球体は一色ではなくてグラデーションして、ときには夜明けのように、夕暮れのように、真夜中のようにかがやいた。瞳の効果は、人魚姫がまばたきひとつするだけで、人間あたりの生き物はコロリであった。

人間の眼球で捉えられる人魚姫は、おおよそそんなところ。そんな美しきモノ。であるからお姫様であって、人魚姫と幸運にも出会った人間は、彼女たちを幽閉したり誘拐したり、独占したがるのだった。ごく一部だけ頭のくるった連中は、命、肉体、血肉を狙うけれど。

ところが、人間以上の瞳のするどさがある、高い解像度のある、読みとれる情報量が多い生物は、人間が思い込んでいるよりも1000倍は存在している。
それらが、人魚姫に出会ったならば、

『ひえ……!!』

なんて、呻くのである。
逃げ出すのである。
化け物から、全力で逃げる。

瞳のきらきらした成分が、それらの瞳にはクッキリして見えた。つぶがある。つぶつぶ。肉体もつぶつぶして、人間に似ている上半身だってウロコに覆われている。人魚姫の眼球とてウロコ状に非常に細かなつぶつぶがひしめいて、そして蠢いて、イソギンチャクのような胎動を絶え間なく脈打たせていた。そこが、心臓部分であるといっても、人間のほかは違和感などないだろう。

人間には、きらきら、きらきら、星のかがやきに見える瞳であるから。

イソギンチャクの呼吸をしてゾワッゾワッ、ザワッザワッ、蠢いて収縮して伸びる、瞳に見せかけた、眼球擬態のなんらかの穴。それが人魚姫の瞳に相当する位置にある。

人間のほかは、人魚姫に近寄ろうとか、美しさに酔いしれるとか、しない。そういう理由は人魚姫の全身総身まるごとすべてにある。

見た目の擬態は得意、それが人魚姫だ。だから、人魚姫は、上半身をも擬態させて、人間たちがみずからに近寄りやすいようにしているのかも知れない。

撒き餌の美しさは、しかしおよそ人間には、蒔絵(まきえ)が如き、美しさ。

人魚姫が人間を狙う理由は、よくわかっていない。
たいてい、遭遇すると、行方しれずになってしまう、ので。


END.

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