YouTuberいらっしゃいませ

進入禁止の立て札が落ちている。

進んではいけない。進むな。立ち入るな。圧力は、しかし古ぼけてしまって今や朽ちている。彼らはかまわずに伸び放題の雑草をかきわけて廃墟に向かった。

今回のロケ地にこの場所を教えてもらえたのだ。秘境らしい。調べたらまだSNSにも知られておらず、ほんとうに手つかずの心霊スポットであった。

廃墟は、朽ちた一軒家であった。嬉々として撮影機材を整えて準備万端。玄関もない、戸のあっただろう長方形の穴をくぐった。

まもなく、うめき声がした。
スマホに向かって「ヤバイです、ほんとやばいです、ここ!」小声で、しかし、叫ぶ。撮れ高がよくなってきて足はどんどんと進んだ。途中で床が抜けるアクシデントがあった。

それでも、YouTuberは進む。

過激な映像、ほかの誰の手垢もついてない場所、こんなところはチャンスの塊だ。
バズるかもしれない。
バズるかも!

「ここの押し入れから物音がします……。定点カメラも設置しました、おれもいけます。心の準備はいいですかッ……!!」

ガラリ、戸を開ける。
開ける。

奈落への道を開けた。
肉塊があった。永遠を生きる、人魚の肉を食った元人間。けれど、そんな事情や歴史は、YouTuberのスマホカメラでは写せない。誰のレンズにも写せない。

グワッと暗闇が食いついてきて、スマホごと胃の中に落ちてゆく。蛇が食事をするように肉塊が歪んだ。

すぐ、ぺ、と、スマホのみを吐き出した。それは。

それから、一週間して、消化が完全に終わったころ、それは、ちいさな手でスマホをポチポチと打った。ソレが触れば電子機器なんて軽く壊せるから、パスワードは意味がない。

それは、目星をつけて、SNSよりメッセージを送信した。

『パーカーザコちゃんねるさん。実は、わたし、見てしまいました。まだ誰も知らないんじゃないでしょうか。あの、なんていうか、幽霊がでる、廃墟……ご興味ありますか?』

アタマは、久遠とともに朽ちた肉体と違ってまだうごく。あるいは本能が捕食を求めるから擬態だってこのとおり。

それは、次は、若い女を選んだ。
メニュー変更である。

最近は、痩せぎすの男ばっかりだったから。


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。