年末の種の飴玉

「人魚姫や、ほんとうにニンゲンになりたいのかえ。ならば。妾の菓子をやろう、つらくなったらこれをお食べ。ツラいことなんてあっという間に、風の精霊が攫っていってくれるぞな」

魔女は、ほんとうは、親切でした。

人間になった人魚姫は、魔法の代償に声を捧げたのでしゃべれません。あんなに恋い焦がれた王子様の結婚式をただ、見つめることしかできません。

人魚姫は、そっとポケットから海の魔女からもらった小瓶を、出しました。指先ほどの小瓶にぴっしりと飴がつまってます。飴を舐めると不思議に甘辛く、塩っけがありました。

ほんとうは、人魚姫には王子様を殺すための魔法のナイフは与えられませんでした。風の精霊にも変身しませんでした。

ただ、ぽり……ぽり、と。

つらいな、かなしいな、そう思うごとに親切な魔女から渡された飴玉をなめてました。月日はするとあっという間に過ぎて、あっという間に初恋の王子様は老人になり結婚相手の女も老衰で死にました。人魚姫がころりと飴をなめているうち、そもそも国が滅亡しました。人魚姫だった少女は、旅にでました。

極東に流れ着いても、人魚姫はぽつぽつと飴玉をくちにします。月日はジャンプしたかのように過ぎました。

人魚姫に、いつしか、現地のひとびとから名前が与えられました。くちのきけないアナタ、でも人に優しい修道女のあなた、八尾比丘尼さま、と。

不老不死、人魚の肉を食ったとされる日の本の八尾比丘尼の伝説は、こうして始まりました。


本人なのにね。



END.

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