暮れの無惨な掃除屋

海にもごみ捨て場はある。年の暮れになると人間は大掃除などするが、海のこちらは、気分気ままに、気が向いたら処分したモノを一掃する。
ゴミとか、死骸とか、いらなくなった皮とか骨とかいろんなものが、とある海の溝に投げ捨てられて、累積して、山になっている。

本年は、たまたま、それが年の暮れだった。

知識豊富な妖怪が人間たちの慣習を話してやったが、興味をしめすのは人魚ぐらいだ。
人魚と人間の繋がりは厄介なので、その妖怪はもう話すのは止めた。

妖怪たちが連れてきたのは、巨大無限大とも思われる、黒い塊だ。
虚無、ほら穴、黒、奈落、好き勝手な名前で呼ばれている。

そいつは、海の溝に捨てられたものを、ズゾゾゾと飲み込んでいった。食べているようだが、食べてはいない。ただ消している。吸い上げてはそいつの腹で消滅させるのだ。

ふだんは、危険な魔女みたいね、と、妖怪たちは勝手に決めつけてこいつを別の海溝に突き落としている。
でも、大掃除のときだけ。
皆で引き上げて、皆で監視して気をつけながら、大掃除をさせるのである。

そいつは、文句も言わずにゴミをすべてたいらげた。ある妖怪、まだ幼い人魚がつぶやいた。

「かわいそうだ、この子」

年長の妖怪が、ふりむいた。
そしてニッと黄ばんだ歯を覗かせる。

「そんなこたない。ニンゲンはな、道具を使う。掃除機って道具があってな、ただゴミを吸わせて吐き出させる、それだけの為に存在させられる憐れなやつよ。おれたちゃまだこいつを生きものと思ってるんだから、ぜんぜんちがう話だぞ」

「そうなの? でも、結局は、この日にだけ出して、あとはしまって、同じじゃない?」

「同じじゃない。おれたちは、使い捨てには、しないからな」

年長妖怪は、目を留めて、指差した。
そら、アレだ。

奈落、ほら穴、黒が吸っていくゴミのたまり場に、細長いものが突き出していた。みるみると黒に座れてヒュンっと消えた。

「あれが掃除機のさいごよ。無惨な話だろ」


END.

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