ジッサイ変な、にんぎょ姫

あんた、人間? こんな海の底までご苦労様なこと。どうも、こんばんは。今は夜よ、知ってる? アタシのとこにくるまでずいぶん若い人魚とたくさん会ったんじゃないの? わざわざアタシに話したいってどういうことだい? 変わり者なんだねぇ!

そうさね、寿命がちがうわい。人魚は500年生きる。だからながいこと、そちらさん方とは交流したがらなかったんだけど、そちらさんがたが海底ビーム測定なんてはじめるもんだからさ。発見される前に名乗りでようってことになったの。あんたらの歴史じゃ、発見したやつが発見したものの所有権を持つんだろ? アメリカ大陸とやら呼んでる島をコロンブスゆーやつが発見したとか人間の本で読んだよ。アホだね。まぁいいんだけど。まあ、前科がいろいろあるから、慎重に、年寄りからまずはあんたらに接触したさ。

そいで今じゃこうして観光客まで行き来するわけ。で? 学者さん、アタシは確かに482歳だよ。老衰しとるが頭はまだまだよ。で?

人魚姫。にんぎょひめ? ああ、もちろん。実話だよ。でもあいつはアタシらがあんたらの前に現われる前に、どっかの人魚と出会ったことがあるだけだねぇ。は? 根拠? こっちにも似た話があるからねぇ。人間の王子、ていう話だよ。バカ話さ。1800年代のある夜更け、船が難破してさ。見目麗しい王子様だけが人魚のおめがねにかなって助けられたのさ。そいででも、アタシらは魚だろう? あたしゃ、人間の街に出たことがあるのよ。ひどい臭いだった。あんたらも、魚市場なんかでひどい臭いと思ってるんじゃないかい? 海の臭いは独特だろう? 魚はヌメヌメして生臭くって卵が腐ってるような臭いがするんだろ? ああ、王子様。王子様は、そんで意識があってさ、臭くてヌルヌルする巨大魚にあんたらと同じような胴体と頭がくっついてるのを見てさ、泡吹いて気絶しちまったのよ。そりゃあもう、ぶくぶくと泡を吐いて。腰抜けだわな。

どこの世界でも作家とか名乗る連中はたいしたもんさね。こんな、くだらない話を立派なお話にしたてて書いちまうもんなんだから。人魚姫が泡となって儚く消える、面白いねぇ。

本当は腰抜け王子が泡をふきまくって人魚が助けてるってのに人魚の腕のなかで溺れ死にそうになってるだけの話さね。こっちじゃ面白昔話さ。ぶくぶく、ぶくぶくってみっともないったらありゃしない!
まぁ、浜辺までは運んでやったそうだから、人魚はいいやつだわな。こりゃどうも。人間の学者さん。お酒、とやら、この水はアタシら大好きさ。また話を聞きにきたくなったらおいで。お酒があるならいくらでも話してあげるからね。



END.

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