人魚と猫写真家

猫が溺れていた。ので、これを海底から見上げるなどしていたある人魚は、人間と同じである両手を用いてこの猫を救出した。側面を両手でつかんで、ざばぁっと海から出した。その状態で浅瀬へとすすんで、猫を陸地へと逃してあげる。

ところで猫は魚を食べるのが好きだ。魚の匂いには敏感だ。溺れてパニックしている猫など目を白黒させてばびゅんと逃げてしまうのがほとんどであるが、たまに、人魚が慈悲と好奇心で救助したにも関わらず逃されるなり食欲本能を刺激される個体がいる。あとは、なにが起こるか。
それが、岩礁にのせてあげた、陸地のへりにのせてあげた、なら良いのであるが、浅瀬へと運んであげた、の場合は、なかば必然、なかば運命、お食事会がはじまってしまう。

ちまたには猫マタなる妖怪がまれに出現するが、そのきっかけは人魚を食したことによる不老不死化現象にあるーーのだ!
と、猫写真家の上野さんは言っている。変な写真をどこかで撮ったらしい。

この説を上野さんが研究会で発表しているところ、質問が飛んだ。

「上野さん、なぜ目の前で猫が溺れているのに助けなかったんですか!?」
「どうしてそんなに猫が溺れてる現場にいあわせるんですか!?」

彼の名声は地に落ちた。人魚の写真はないが、猫が溺れている写真はたくさんあったのが悪かったからなのか、動物愛護にはんするとして逮捕された上野さんの愚痴を、若手の警察官がどうでもよさそうに聞いている。どうでもよさそうに相槌した。言った。

「上野さん、人魚もネコマタも、この世に実在するわきゃないじゃないですか」
「このバーーーーーーーカ!!!!!!」

上野さんがマジギレして叫ぶが、すでに狂人とさだめられた上野さんの暴言なので、誰も相手にはしなかった、と、いう。

この世には、関わってはならぬ世界がある。


END.

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