手荷物の玉手箱はひとつ

時間は光の矢を射るかのよう。疾やい。老いれば、老いるほど、その速度はあがる。

思い出は、逆に、若きときのものほど荷重されて重くなる。老人たちは若いころの思い出や価値観に囚われる。

ある人は、それを竜宮城と呼んだ。
不老不死の人魚姫には会えないけれど、あたしたちって竜宮城には必ず、いくのよね。最後にはツルになって空に飛んで行って自分がなんだったかも忘れちゃうの。竜宮城の玉手箱だけは、みーんな、産まれたときから小脇に抱えてんのね。

親の老人ホームを探し、その金額に驚く。人間たちの経営する竜宮城は世知辛いもので、現実味しかしなかった。

時間はあっという間、記憶もあっという間に溶ける。ツルになって飛ぶまであっという間。玉手箱を開けずとも、玉手箱からの臭気は漏れて、あっという間に老いていく。

この世界から、追い出されてしまう。
ただ、平等なルールと思えばまだ少し、まぁ、救われる思いがする。

貧富も差別も人種もなく、皆が同じく持っている共通のもの。玉手箱。平等な暗闇からの支配は、まぁそれはそれ、少し、うれしい。

これでやっとみんな、ひとつになる。


END.

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