よすがなき人人

人という字を並べてもヒトは手をつなぐことはできなかった。

人人

この距離がいつもある。
誰にでも常にある。

友人も、兄弟も、親も、誰にしたってヒトとヒトだから手はつなげない。だからヒトは猫を愛でたり植物に水をやったりする。ヒト以外のものに心を委ねてみようとしたがる。

むなしいと思うこともあれば、満足してそれでいいと納得することもある。そも、納得ができなければ、地獄が待っている。

ひきこもりの兄の部屋の扉を、猫がカリカリと引っ掻いている。ほら、猫はこうだ。ヒトとは違う。誰も近づかない兄のふところでこの猫は眠れるのだ。そして私とも寝る。母とも、父とも。

ヒトにはとてもできない。手をつなぐことすら難しいのに。昔の映画みたいに、人差し指いっぽんですら、キスするみたいにつなげられない。なぜって、気持ち悪いから。
ヒトはひとりきり。そういう世界が皆別々に持っている。

それで、淘汰されることもない現代社会では、ヒトとヒトの距離はますます遠のく。私は嫉妬した。猫を兄の部屋のドアから引き離して、私のベッドに連れてゆく。

ゆるせないからだ。

人魚姫みたいな童話で、皆、それぞれの死に方を選べたらいいのにね。兄の部屋を横目に猫を連れ去って、私は自分の部屋のドアを閉めた。

人人

手をつなげるなんて、おとぎ話みたい。


END.

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