見世物小屋
未公開の怪物現る! デカデカとしたポスターに筆を走らせる職人がしかし、見世物小屋の主人に尋ねた。筆は止めずに主人の描いたラフを再現していった。
「トラもゾウももう珍しくないぜ。公開するだけで客がくるなんて、それなんて生き物だい」
主人は答えない。ただ、ラフ画に視線を注いだ。絵描き職人が魚のウロコを描き込んでいった。
「最近の溺死体、あんたんとこの芸人じゃねぇかってウワサがでちょるぜ。そんでもってこのお題目! こりゃあよう……」
「うるせぇ。ポスター描けや」
ぶっきらぼうに反抗する主人はパイプタバコをくわえる。独特のくさみが、せまいテントに充満していった。町外れに設置された、見世物小屋のさらに裏手にある小規模テントである。虫の羽音ひとつならず閑静な夜が広がる。ポスターにウロコが重ねて描かれる。そこに忍び寄る影は、下半身は魚類、上半身は人類の奇々怪々たる生命体。
「役者さん、死なんとよいがねぇ」
「うるせぇつうてんだろう」
見世物小屋の主人は、パイプタバコを威勢よく吸い上げて、黄色い息を吐く。すでに練習中に事故死した女は10人を超えているが、小屋だってもう、『新鮮なネタ』に困っているのである。
そもそも、人魚姫なんて発案をしたのも小屋の芸人女のひとりだ。
それこそ、女が尽きるまで、人寄せできる演目を命がけで再現してみせよう。それがもはや見世物小屋主人の思惑だった。小屋が潰れるか小屋の奴ら全員が死ぬのが早いか、どっちが先かの、うすぐらい絶望の競争である。
見世物小屋なんてものを始めたのが運のツキさね、とポスター絵師がちゃかした。
END.
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