秋波の男が

秋の波を女の目つきに例えるそうだ。でも、私は鈴波くんの視線をそう呼びたい。なんともいえない哀愁があって、寄せては返す波のようで近づきたくても近づけない。濡れてしまって風邪を引きそうな目つきだ。なのに、魅力的で、彼に見つめられると私は心臓がきりきりしてごとごとして大変になるのだ。

ある朝、教室にふたりきりになった。私は心臓が潰れそうでおかしくなりそうだ。

鈴波くんは、例の秋波を思わせる、憂鬱にして美しい瞳をゆがめて私を見ていた。そして、言った。

「御堂さん。こんにちは。初めて話しかけますけどいきなりすみません。母から聞いたのですが、貴方は僕の異父姉弟だそうで。どうぞ、ご承知おきを。僕は貴方を見てるとなんともいえず不快感がある。あんまり僕を見ないでくださいね。鬱陶しいから……」

私の。初恋は。こうして。

潰れてひしゃげて叩き割られて、あっという間にあっけなく簡単にあっさり、終わった。


END.

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