香代子さんのヒモノ

足のうらがむずむずするわぁ。そう言ってた香代子さんがばりばりと皮膚を本当に掻きまくるから、肌が痛むや、歩けなくなる、注意をした。

しかし、香代子さんの足は、皮が剥けて骨が露わになった。
もう一方の足もほどなく同じくそうなった。

それから、香代子さんの融合がはじまった。足の骨と骨がくっつき、ひと束になった。まるで人魚のヒモノや、そう揶揄している間にも骨と骨は溶け合ってひとつになった。

香代子さんは、生きている。しかし歩けない。外にも出られない。

香代子さんは、家のなかで這いずり、べつに特に問題はなさそうだった。畑に出なくていいから楽だ、香代子さんは言うやら、家族は大騒ぎするわ、我が家は村一番のひみつごとを抱えた。

そうして、いちばん末の息子が、おれが死ぬときも、香代子さんは、それらの日と変わらぬ姿のまま、干からびてしわしわのヒモノ爺となった弟を見下ろしている。

いまわのきわ、かろうじて、聞こえた。うんそれがいいよ、姉ちゃん。最後の返事は届かず、天に召された。

「しゃーないか。こりゃ海でも行ってほんものの人魚にでもなるしかない」

人魚って病気なんだな、と、うっすらした世界で霞に包まれながら、自分らしき誰かが、小首をかしげた。


END.

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