しろい姦しい女

深夜の道路どまんなかで女が組体操。ちょうど、『姦』という漢字どおりの組み方です。俺は酔っていたので、ベロンベロンだったので(なるほど! これぞ姦(かしま)しいッてか! おんな3人寄らば!)など、得心しながらにこにこして深夜の組体操を見つめた。ぼや〜っとした彼女たちは、全員が白いワンピースを着ているようだった。あしもとがボンヤリして靴の色とか、わからない。

ベロンベロンな俺にはどうでもよくて、頑張ってんなぁ〜!! というだけの話です。通り過ぎました。アパートに帰ります。大学生の飲み会なんて無法地帯、やりたい放題、浴びるほど飲んで、布団に倒れるころには気持ち悪さが喉をつくようになった。

朝焼けで空気は青ばみました。酒の残りをトイレでげぇげぇ吐いて、俺はまぁ朝飯を買いにコンビニまで戻るため、出ていきました。道路を通ります。

「あやぁ……?」

昨日。奇妙な。姦しい、なにやらが。

なんせ二日酔いがひどくて。よく覚えてません。でも昨日、おぞましいものを観たような……。

自我がストップをかけたのか、悪寒が背筋を貫いた。ブルッとする冷たさ。毛穴の毛が逆だっていつもの通学路が禍々しくかんじた。

でもきっと気のせいでしょう。

そう思わないと、取り返しがつかない予感がして頭痛が鳴りました。忘れないと。忘れないと、呪われる。

「あ、あ、ああ」

でも、手遅れなかんじです。声に出してしまって、朝になって視えなくなったそれらに逆に発見されて凝視されて、むしろ3方向から取り囲まれてるみたいな圧力。なんだこれ。なんだこれ。

あたまがまわらない。

俺は、必死になって、

「ああ昨日、人魚姫を3匹、観た気ぃする」

ずっと昔に母さんの趣味で読み聞かされた絵本なんてものを、死に際に思い出していた。それがなんだ。なんなのだ。ところが、何やらスイと引き潮めいた匂いがして、ひといきれのムンとした空気が薄くなりました。

どうやら。

終わったようです。助かったみたいです。ああ、そうだ……、母さんに久しぶりに電話をしよう、じんじん痺れた頭でにわかに思うと。

団地マンションのすきまを縫って差した朝日が、俺を照らした。


END.

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