『人魚姫』な名づけ

永久を活きるモノにとって、暦はどうでもいい法則である。そも、人類が数千年のうちで勝手に造ったものだから、興味をもつ必要だってない。

しかし、活きるモノは、その悠久永劫がゆえ、暇をもてあましている。

暦を盗み見て、今はハチガツ、今はアキ、など、自然と覚えていった。温かい海、冷たい海を分けて呼ぶ人類を面白がった。そのなかでも人魚たちは冷たい海に棲むのも好むから、彼女らはいつしか冬の人魚と呼ばれるようになった。(変わり者の常夏の人魚もいる)

冬の人魚は、イチガツ、と言葉を覚えた。

私たちは冬の人魚。イチガツの人魚。永遠にずっとつづくイチガツの海に棲む、氷漬けの乙女たち。なかなか面白い言葉の響きであるから、人魚たちは人類の文化を迎合した。

人魚たちは変わっているよね。海のモノがウワサする。あんな数千年ぽっちの生命体に固執して気に入るなんて。かわいそうに。変わり者すぎる。

そんなふうに、言われても、人魚たちは乙女でもあるから、きゃっきゃと無邪気に喜ぶモノだ。冬の乙女、イチガツの女、自分たちのあらたな呼称を喜んだ。

「人類は創造性がある」
「面白いものだね」

そんな会話を、人魚たちの言葉で交わす。そんな人魚だったから、ある日、海から出て、人類に接触して、アンデルセンにたまたま出会ってしまって『人魚姫』なんて神話を描かれてしまうのであった。

海のモノたちが人魚の失敗を非難した。人魚たちは、ケロリとして、言い返した。

「今から人魚姫になった。そう喚べ」

と、慇懃(いんぎん)に。
お気に入りの呼称になったのである。

『人魚姫』。


END.

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