天と海と人間

神様は天を創り、海を創った。人間は神様の姿を模して創ったというけれど、では、天と海と人間の三位を分けながらも混ぜて創ったものがあるなら、それは人魚姫である。

だから、彼女たちはみな美しい。

それに、不老長寿である。けれどだから決して人間には見つからない。人間が嫉妬してしまうからだ。神様はアダムとイブ、カインやアベルなどを見て、参考にしたのである。

天と海、人間の中間である人魚姫たちは、メスしかいない。慈母神でもあるからだ。

そんな彼女たちは完璧である。が、ひとつ、道を踏み外す、決定的な間違いがある。

恋である。

天、海、神はほんとうの意味での恋をしない。けれど人間も混ざっている人魚姫は、恋に落ちることがある。すると、その人魚姫はやがては世界から消えなくてはならない。人魚姫は三位の中立であるのに、まるで人間そのものになり果ててしまうから。

恋とは、猛毒なのである。

それでも人魚姫は恋をしてしまう。2022年の今では、恋をせず、泡と消えずに生き残る人魚姫もたった数匹になってしまった。彼女たちは最期の人魚姫である。

深海に棲み、人間から隠れながら、創生の神話と創生の三位を語り継いでいる。天と海と人間と、三つのバランスを保つ存在である彼女たちが絶滅すると世界は崩壊する。そんなふうに世界は創造されている。

恋の予感がするつど、破滅の刻は近づくけれど。

人魚姫たちはまだ数匹が存命だ。まだ、この三位の世界は、存命だ。

儚い、泡のような世界である。


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。