化石のヤサの恋の旅

マーメイドのヤサは嬉しさで死んでしまうかと思った。世界の海を泳ぎまわり、旅人のヤサなどと呼ばれるようになって、何千年が過ぎただろうか。

ついに、ヤサは彼を見つけた。

彼が死んだはずの場所は何度も回遊した。掘り起こした。そこに、数週間も前に地震が起こった。別の海域にいたヤサはウワサしか知らないが、海が陸に飛び出るほどの地震で、陸の命たちは今えらい目に遭っているらしい。ヤサはマーメイドなので陸にそこまで興味はなく、彼を探しているから、飛ぶほど泳いで震源地に急いだ。

崩れた岩場、地面を掘るなどした。そうしてついにヤサは或る首長竜の頭部の骨を見つけたのだった。

ヤサが知っている彼とは随分違う。骨だし、もはや化石になっているし。
しかし、彼だ、ヤサは確信してぎゅうっと恐竜の頭蓋骨を抱いて額にはキスをした。どろりと汚泥の味がした。

かつて、遙か昔にヤサが恋した相手。生き別れになった恋人。
名はなかった彼だが、ヤサは愛しい命、と呼んでいた。

愛しい命。ヤサは歌い、化石を抱いて喜びのあまりにぐるぐると回って泳ぐ。

その日を境に、ヤサは化石のヤサと呼ばれるようになった。
同族の人魚達にはヤサの気持ちがわからない。
ただ、ヤサが化石に恋したらしいとわかるので、おかしな娘という由来を込めての名付けとなった。

化石のヤサは、首長竜の骨に藻草などを通して首にぶら下げられるようにして、延々と、永遠と、化石といっしょに泳いでいる。
2匹が離れることはもうない。ずっと一緒で、ある。それこそいつかヤサが事故などに巻き込まれて死んで、化石になったとしても。化石と化石になったとしても。

ヤサの恋人はすでに化石になっているから、この恋は永遠と同じ。終わりなき恋。マーメイドであるヤサにとって、これほど嬉しい恋の結末は、ない。


END.

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