サウナで生きる魚の類い

湿気った、真夏が好きだ。水戸海ハルカはまるで水中か、サウナにいるかのような、他国の者から拷問では? と疑われるほどの気候が大好きだった。

このところ地球はおかしくて、日本もやっぱりおかしくて、夏はセミもスズメも黙らせるほどの熱帯夜がつづき、昼間はろくな外出すら忌避される。壊れたような熱い、あつい、灼熱の毎日。

ハルカは、最高だ!! となる。特に日本は湿気があるから、毎日がサウナだ。通勤電車に乗り込んだら冷房が効いて、寒暖差が激しくてまたゾクリゾクリとする。

ここは。海のなか! 海から顔を出したような、そんな往復の世界になったんだ。

前々からサウナは好きだった。水中生物のような生き物になりきれるし、サウナでムシムシされているうちは、自分がまるで不老不死の地球外生命体になったかのよう。永遠にほど近い一瞬を感ずられる神秘がサウナにあった。

ムシ、ムシ、連日連夜、過酷な夜に汗だらけになって悶える。ハルカの快感。

面倒といえば、洗濯物を頻繁にまわさなくちゃならない、ことくらい。

たまにハルカは思う。夏になると。猛暑日が連続すると、くらくら目眩と快楽のはざまで身悶える。わたしって、前世はきっと魚だった。シーラカンスか、人魚の類い。化石ほど生きた海の生物のうちの、どれか。

この苦しみがずっと、酷暑がずっと続きますように。ハルカは冬はサウナに通う。でも夏は、下手すると、もう春も秋も通う必要がないくらい毎日が真夏日と湿気の日だ。

惜しむらくは、ハルカはただの脆弱な人間で、酷暑となるとハァハァとうめいて熱中症すれすれに消耗してしまうこと。気持ちいいサウナだけれど、24時間持続はさすがに生命に関わる!

……わたし、最初から、魚に生まれていればよかったなぁ。

水中のような湿気た熱帯夜、ハルカはしみじにとして、毎晩そのようにして眠りにつく。酷暑に見る夢は、やっぱり蒸して苔が生えそうなながい夢だった。

魚の見る夢も、こんなにか長いのかな。


END.

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