彼女の好きな終わり方

彼女にすると海に終わりはない。ぐるぐる、輪っかになって、海はずっとつづく。ところが、進む方角を変えると急に終わりはやってくる。

終わりは、美しかった。
一面の空間は水がない。しかしたまに水の雫が降って湧く。たまに真っ黒なモヤに包まれている。かと思えば、直視できない巨大な光輪が白く燃えながらゆっくりと横断する。

人はそれを空と呼ぶ。

彼女たちは、それを、世界の果てと呼んだ。

彼女たちのなかの彼女にすると海の最後。海が尽きて、水なき空間を隔てた遠い何処かにあるものが、なにやら空間の反射などでたまたま、目に見えているかのよう。現実味はなくて夢の世界にあるような終わり方だった。彼女はこの終わりを気に入っている。

いつか、星の命が枯れて終わるなら、この水なき世界と同化して終わりたいものだ。彼女は思う。そうすれば一瞬だけでもあの空間に入ることができるだろう。

人間はこれを滅びの美学とか自殺願望とか呼ぶかもしれない。

彼女たちにすると、気が狂ってしまった妹だ。よくあることだけれど。

彼女たちのなかの彼女にすると、これは幸せなささいな夢である。手を伸ばしてもつかめないソラに手を伸ばし、彼女は、今も終わり方を探している。終わり方にたどり着く方法を。

あと何千、何億、何万年か。
もしかすると明日かもしれない。

夢見がちな彼女は、ふしぎな空の色を人魚の青瞳に乱反射させながらうっとりしてソラに見惚れていた。毎日の、日課。そして毎日の見張り、である。

世界はいつ終わるかわからない、から。


END.

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