シケとナギ(たんぺん怪談)

猛々しく猛威をふるうシケと、静まって沈みきったナギ。時化と凪のときの海のちがいを人魚姫は人間に教えられた。人魚姫がこっそり難破船から救助した男の子は秘密の入り江に隠されていた。人魚姫は、弱っている彼に海の底で作られたスープを与え、人魚たちが食べている特別な深海の魚を与えた。

よもつひらさか。黄泉平坂は、生者と死者をへだてる境界線であるが、人魚姫も男の子も知らずに入り江を黄泉平坂にしてしまった。

人間の男の子は、人魚の食物を食べてゆくうち次第に人間を離れていき、人魚姫もまた男の子から人間を教わって知識というリンゴを味わって人魚離れしてきてしまった。一人と一匹はやがて知らずにそれぞれ浮世ばなれして一緒にいるばかりになった。人間の男の子なんて息が魚臭くなって目玉がせりだしてゴロゴロしはじめた。ついに人魚姫は智慧に飽き足らず、自身も人間になろうと決心した。そのときには人間の男の子は本当の意味で随分と人間ばなれしてしまっている。人魚姫が声の代わりに足を得て秘密の入り江に戻る。人間だった男の子と手をつないで入り江で踊った。

バケモンがでる、怪物がでる、妖怪がでる、うわさが広まっていた、ある海辺のある入り江が完全に異界と化した。そこでは永遠に踊りつづける2匹のバケモノがいて、目が合うと、こちらに興味津々で肉体をバラバラに引き裂いて、皮を剥ぎ、裏側まで調べるようにして食べてしまうのだという。いつしか荒々しいバケモノのほうをシケ、大人しいほうのバケモノをナギ、と名前がつけられた。

シケとナギは魚の怪物。人間と人間に恋した人魚姫がなり果てた、異界の怪物たちである。



END.


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