なにせ幼稚園の先生ですからね

「はい、みんな、マーメイドになったと思って~」

 教官の指示に従うおとなたち。無重力空間にてふよふよする。が、脳裏やら、胸中やら、腹のなかでは「?」「人魚?」「なんで」と疑問がうずまいた。

 教官の手腕はよく、首尾良く、実習は進む。全員がものものしいイスに座って、さあ、宇宙船操縦のプログラミングをいよいよ開始しようとなった。ところで、教官は言った。

「ああ、みんな、横にあるボタンは緊急脱出装置ですから~。今は押しちゃだめですよ。今は生徒でここぎゅうぎゅうでしょ。脱出したら、パラシュートがひっかかってぐちゃぐちゃになりますから。ほら、今ぎゅうぎゅうでしょう、お弁当のなかのゴハンつぶみたいに」

 教官の指示に従って横のボタン――赤いボタンだから目立つ――を確認する、おとなたち。だが、やっぱり各々、疑問がうずまいた。「?」「お弁当のなかのゴハン?」「べんとー箱のメシ!?」教官、なんかおかしいな? 誰もがうっすらと気づく。

 だから、最後に先生が述べた挨拶は、皆に「ああどうりでなるほど!」言わせるのに充分すぎだった。

「はい、プログラムは終わりです~。簡単だったでしょう? 世の中、もう誰でも簡単に宇宙飛行士になれますから。プログラムさえ修了しちゃえば。先生も、去年これを学ぶまでは、幼稚園の先生だったんですよ~」



END.

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