好きならイイネ!(たんぺん怪談)

イイネ、押して。

最初はそういう、お願い。たいしたことないので「うん」って返事して彼女のTwitterにイイネを押した。

そのうち、リツイートしてねっていう、お願い。まぁたいしたことないから「うん」って返事してTwitterのRTボタンを押した。

やがて、どうして今日のはイイネをくれないの? 怒られるように。嫌だったから「ごめん」って、その場でイイネを押した。

ついに、どうしてリツイートしないの? どんどん要求がエグくなる。うんざりして「ごめん」って、教室のイスからまだ立ってないうちからRTボタンを押した。

当たり前の悪循環で、あたしのTwitterは彼女のコピーか模造品か海賊版みたいに。このTwitterの持ち主ってだれ?

こんなの、あたしのTwitterじゃなかった。
声を奪われたみたい。
命を封じられたみたい。

みんなの見る目も変わった。あたしって、彼女の手下、リアル世界でも「でもアンタってアイツのフォロワーじゃん」なんて。彼女の後ろにぴったりくっつく、影になっていて、あたしは死にたいくらいなのに、みんなも彼女もそうとしか見なくなった。

彼女は、あたしの何なの?
あたしは、何なの?

でも今更、やめられなかった。だって止めると彼女に怒られる。コレはフォロワーとかリスペクトとかじゃなくて恐怖とか支配とか、そういう単語の分類だろう。

あたしが消えてゆく。Twitterから、リアルまで侵されて。消えて溶けてどろどろの外殻だけが皆に見える。彼女にだって、あたしの殻しかもう、見えてない。中身を見ない。あたしも、あたしの中身がわからない。

Twitterって恐い。こんなの恐い。

まぁ、そんな理由で転校して、今の学校にきた。Twitterは削除して作り直した。誰をイイネしてRTボタンを押して誰になってゆくのか、これでまた新しく選べる。

あたしは、安心したような気がする。
でも、もう取り返しがつかないくらい、なにか、ヘンナモノに依存してるみたいな。

泡になって消えてるような。
虚無感が、消えない。

消えない。



END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。